広辞苑の分厚さと重さに

1955年の今日、岩波書店の『広辞苑』初版が刊行。となれば5月25日が広辞苑記念日に制定されるのは当然と納得するのは、あるいは僕が古めの人間だからかもしれません。
出版界に身を置くものとしては、最後の砦でした。意味や用途に迷った末、誰かと口論にでもなったら、とにかく『広辞苑』を開く。その説明によって決着がつくという点では、法典と呼ぶべき存在でもありました。
最後の砦としていたのは僕だけかもしれません。通常の原稿書きでは、あれほど分厚い書籍を持ち出すのは不便で、もっとコンパクトな国語辞典を使っていましたから。ですが、岩波書店の『広辞苑』のサイトを見たら、こんなエピソードが紹介されていました。葬式不要とした、作家の杉本苑子さんの遺言です。
「使い古した『広辞苑』を一冊、埋めてくれ」
しびれますね。作家ともなれば、あの重厚さを存分に慈しめるのだと思います。その使い古され方、拝んでみたいものです。同じサイトには、こんな記述もありました。
「長くなりがちで要点をつかみにくいインターネット上の表現との決定的な違い」
これは、「語釈が簡潔かつ的確であることに尽きる」という『広辞苑』の特長というか優位性をアピールした一文です。
また別の部分がしびれますね。PCをメインの筆記道具にして以来、『広辞苑』はおろか国語辞書自体を利用しなくなりましたから。なんだかんだ言って、ウェブのピンポイント検索の便利さに頼り切っているんですよね。自分の文章力が発展しない理由かもしれないな。
でも、いまだに書棚の一番手前に置いてあるのです。おそらく、手放してはならないお守りのようなものとして。僕の『広辞苑』は、1991年11月15日が発行日付となっている第四版第一刷。90年代末までは手書き原稿だったので、それなりに使った記憶があります。けれど最新版は、2018年発行の第七版。その間だけでも27年。久しぶりに手に取った分厚さと重さに、何かを戒められたような心持ちになりました。

いいお天気。1年中、最高気温が25度止まりの晴天だったらいいのに。

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