その12/豚カツ屋「さぼてん」次の通り、『シンソンソルロンタン』の仙農湯

どうやら、すっかり韓国に心を奪われている様子。
しかも屈強な兵士のために生まれたアテに
魂まで抜かれそうな勢いです。


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はじめて海外に行ったとき、ニユーヨークの空港で驚いた。
カリカリとベーコンを焼いた、あの動物の油の匂いがする。
その後、パリではブルーチーズとエスプレッソの滓の匂いが。
台湾ではラードとニンニクが入り混じった匂い。タイでは魚醤。
そしてもちろん韓国の空港はキムチの匂いで包まれていた。

鼻から入った衝撃は、すぐに飲食となって、口にねじ込まれる。
それはスープの場合もあるし、煮物や炒めもの、ヌードルの類い。
あるいは匂い立つ肌の毛穴から、熱い異性たちの口角からも忍び込む。
そしていつか、その地方のすべてに身も心も浸り切ってしまう。
人間に口と鼻がある限り、食欲と色欲から逃れる術などはない。

日本のスープは、煮立つ前に上げられた昆布と血合いを抜いた鰹節。
沖縄では丸ごと利用する濃い味の鰹節に、皮や骨ごとの豚のエキス。
ノルマンジーの鄙びたレストランでは、濃密な魚のスープだった。
韓国ではすべての基本は牛。それも丸ごとスープにする。
クッパも、麺類も、サッパリして濃密なのは、すべて牛の成せる技。

さてさて、牛スープの味を思う存分楽しむなら、ソルロンタンだ。
仙農湯(ソルロンタン)は、兵士に栄養をつけさせる目的で生まれた。
だから消化が良く、いつでも食べられ、しかもモリモリ元気がつく。
牛の頭から、足、ひじ肉、骨、内臓と、要するに一匹丸ごとを、
巨大な寸胴鍋で、炎で鍋を包み込むようにして、ひたすら煮る。

やがて、あらゆるアクや臭み、脂肪分などがあっさり抜けて、
サラリと白濁したスープが巨大な鍋の中で完成するという仕組み。
味もほとんど付けてなく、テーブルの塩を振ると劇的に味が変わる。
次にキムチを投入すると、またもや味は自在に変化し、目が回る。
酒に疲れた朝にはもってこい。そのまますぐ、また飲み続けたくなる。

我が愛しのソニン(似)と『シンソンソルロンタン』前で待ち合わせた。
ミョンドン駅の8番出口を出たら、角を左、「さぼてん」を通過して、
十字路を越え、大通りを右に、目の前は靴屋のABCマート。
なんだか、このあたりは新宿か渋谷にいるような気分になる。
道のあちこちには、コピーものの、なぜか靴下を売る露店。
シャネルにグッチ、プラダ、そしてケロロ軍曹までが揃っている。

肝心の味は、もう言うことなし。お腹に余裕があれば、
主役以外の唯一のメニュー、スユクで一杯なんてのもいい。
スユクは熟肉、漢字にするとエロチックでこってり感があるが、
実は至って淡白。要するにソルロンタンの副産物の煮出した肉だ。
しかし、ここでのもうひとつの主役は食べ放題のキムチとカクテキ。


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「カクテキ違う、カクトゥギね」そう言いながら、異国の指が、
トングとハサミで、器用に漬け物を切り刻んではスープへ!
「あっ、待って!」という間もなく、ご飯さえぶち込まれてしまう。
親切なのか、強引なのかわからない韓国娘たちのペースに、
いつのまにか帰路を忘れて飲んだくれている玄界灘の向うの僕。

このまま、キムチの匂いが毛穴から這い出してくるまで、
異国の地と、異国の肌に、いっそ、我を忘れてしまおうか……。
ああ、そんな思いを知ってか知らずか、禁断の扉が開かれる。
銀色の扉の中には真っ赤に燃えるキムチとカクトゥギの山が……。
少しずつ辛ささえ麻痺して来た舌に、韓国の酒が優しく甘い。

キムチ好きとしては、口のなかがでろでろになっております。しかし、なぜソニン(似)の写真を公開してくれないのだろう? (T.T.)


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