その32/上田映劇あたり、『こくら』の「あんかけ」
ふと降り立ったはじめての街。
アテを求めた店で思いがけぬ誤算もあり、
誰も知らない日暮れに切なさがこみ上げてくるのでした。
夕暮れの電車は、ジャージ姿の高校生たちでいっぱい。
バスケ、バレー、野球、みんな部活のことを話している。
長野駅から上田まで、小さな城下町に向かう40分の旅。
それは、忘れかけていた高校生の午後を思い出させた。
あの頃、ダンパのギャラが入ると餃子を食べたっけ、
大人たちの目を気にしながら、ビールも少しだけ飲んだ。
知らない街に来ると、なぜか無性に映画が見たくなる。
こんな夜には「ロッキー・ザ・ファイナル」の気分だ。
でも、その前に餃子を食べよう、喉も少し乾いている。
映画館に近い『こくら』のあたりには、私服のコたち、
高校生だろうか、何人か中学生がいるのかもしれない。
何をするでもなく、ただストリートにたむろしている。
どこにでもある、いつの時代にも変わらない風景。
壁の張り紙の「あんかけ」という文字に惹かれ注文する。
なぜだろう、長野界隈では焼きそばが絶大な人気を持つ。
それも決まって、あんかけタイプ、ボリュームの一皿。
ここんちでは、餃子の皮を揚げて、あんをかけるらしい。
だったら腹にたまらないから、アテにはもってこいだろう。
そう思ったのが運のツキ、上田の「もり」を甘く見ていた。
ついでに、「焼き餃子」を一緒に頼まなければよかった。
池波正太郎の「むかしの味」で有名な蕎麦の『刀屋』、
そして同じく、彼が愛した『べんがる』のカレー。
どちらも、確かに良心的過ぎる大盛りで有名なのだ。
「あんかけ」もアテというには超の付く大盛りぶり。
3人か4人でつついてもいいと思える、大変な量だ。
しかし、まずいことに、すこぶる旨いから食べてしまう。
おまけに野菜たっぷりの「焼き」もいい感じに旨い。
ああこの後、『ベンガル』のカレーで〆たかったのに…。
後悔してももう遅い、カレーと蕎麦は次回にまわそう。
東京から2時間弱、きっとこの街にはまた来るはずだから。
欲望に素直に従うことが、人間の良心かもしれないと、
胸のときめきを忘れかけていた僕に教えてくれた街と人。
カラシを一杯といた酢をかけながら、「あんかけ」を食らい、
僕は何度も切なくて泣きそうになった、春はもう遠い。
遠き青春の思い出から現実に引き戻そうとする、目の前の大盛りあんかけ。ああ。切なすぎるなあ。(T.T.)

それぞれの「引き出し」を
つくっているのはこんなひとたちです。