その36/青山トンネルあたり、『夕凪』の「だれやめ」
日本各地、はたまた海外にまでアテを持つ森さんの、
今日はもっと至近なアテを紹介。
九州男児が頑張ってる店なのです。
ちょうど仕事部屋がある処までが渋谷、路地の向かい側はもう青山。
ほんのちょっとしたことだけど、渋谷区と港区は何だか感じが違う。
だから、つい僕はいつも、青山トンネルを渋谷に向かって抜ける。
そんな訳で、トンネルを抜けた2軒がいちばん近いアテのありかだ。
そして何故か、2軒ともなぜか九州人の兄ちゃんたちがやっている。
立ち飲みの名店『なるきよ』は、またいつか紹介することにして…。
今日は一周年を迎えて改装したばかりの『夕凪』、ラーメン酒場だ。
とは言っても、本来ラーメンは酒場で食べるもの、酒の〆だ。
よく九州人は豚骨ラーメンばっかり食ってると思われがちだが、
いつも日常に好んで食べるのはうどんで、ラーメンは酒の友だ。
しかも、バリカタ、ハリガネ、コナオトシと固茹でを競い合う。
そのくせ、昼間食べるうどんは離乳食のようにフニャフニャ。
その辺の感じが九州男児なんだけど、ヨソの人に分かるかなあ。
昼間は『凪』という名でシンプルにラーメン屋、夜は『夕凪』になり酒場。
絶品の豚骨ラーメンも、なんと毎日変わる日替わりラーメンもある。
まず座ったら「だれやめ」、生ビールか選び抜いた焼酎各種に、
ニラと炒めたメンマと香ばしい炙りチャーシュー付きで800円。
「だれ」とは疲れのこと、お疲れぶっ飛ばしセットというわけだ。
酒の盛りも、アテも、九州そのまんまの味と量で嬉しい限り。
甘辛く煮た手羽先やオムレツ、博多屋台を思わせるアテが一杯だ。
蕎麦屋で飲んでいたら「ぬき」なんて手がある、蕎麦抜きのアレ。
つまり、天婦羅蕎麦の蕎麦だけを抜いた、飲んべい用のアテ……。
しかし、九州では主役を「抜く」なんて、もってのほかだ。
思い切り豚骨スープを煮詰め、炒めて凝縮化し、水分を飛ばす。
そうやって出来上がる屋台名物の代表が「焼きラーメン」だ。
こってりした味と旨味で、芋焼酎がどんどん進んで行く……。
故郷に錦を飾るか、いいかげん諦めて田舎に泣きついて帰るか。
花の東京に出て来た九州男児の選択肢は、たったその2つしかない。
だから頑張る奴はとことん頑張る、『夕凪』や、『なるきよ』はその代表格。
疲れた頭と体で青山トンネルを抜けると、あいつらが元気をくれる!
そう思うから、夜が訪れるたびに僕は酒場に出かけるんだと思う。
家で缶チューハイを飲んでも、明日と自分を追いつめるばかりだ。
「なんばだれとーとや、芋、水割りやろ、飲まんヤ! とことん」
よしよし、今夜も飲んだくれてやる、東京がなんだ! ばかやろう!
九州からやってきて、東京のど真ん中で戦ってる。男らしい、と思う。九州の言葉で言えたらいいんだけど。(T.T.)

それぞれの「引き出し」を
つくっているのはこんなひとたちです。