その42/新丸子駅あたり、『三ちゃん食堂』の「ハムカツ」
路線によって異なる川向こうの風景。
昔ながらの情が濃い町にたどりつける東横線を選んで、
今日のアテは大衆食堂へ!
夏が明け、久々の大型台風で、茶色く猛り狂った多摩川を見た。
週末ごとに、若者たちのバーベキューでいっぱいになる川原。
東横線で多摩川を渡ると、たった川ひとつで川崎の風景になる。
東急が新しくつくり上げた田園都市線の空虚な風景にくらべると、
東横線越えの川崎は、昔ながらの、ほっとする街の情が濃い。
『くるり』の佳曲「ハム食べたい」で過ごした暑い夏を送るために、
僕は久しぶりに東横線の各駅停車に乗って、新丸子で降りた。
もちろん、『三ちゃん食堂』で名物の「ハムカツ」を食べるためだ。
懐かしい暖簾をくぐると、ざわめきが店を占領している。
部活帰りの学生たち、ニッカポッカの兄ちゃんたち、ご老人、
若い女性同士のグループや、カップルたちも並んでいる。
ずらーっと並んだ、縦3列のそっけない巨大テーブルに、
相席なんてナンセンスな、幸せなギュウギュウ詰めで、
みんなが豪快に食べ、かつ、ガンガン飲んで話している。
大手チェーンの、食堂とは名ばかりの腰抜け店なんかには、
決して太刀打ちできない膨大なメニューとチープなプライス。
ホールのお姉さんたちの記憶力と気風の良さも味のうちだ。
親父と一緒にやって来た小学生の息子が満面の笑顔で、
350円のラーメンと、200円のハムカツを食べている。
300円のサワーを流し込みながら、親父も手を伸ばす。
向うのおっさんグループは2.7ℓのピッチャーでご機嫌。
アンダー300円のギョーザとシューマイがずらっと並ぶ。
ラードでつくったナルト入りのチャーハンも捨てがたい、
でも、やっぱり名物の焼肉丼で今日は〆てみようか。
大衆食堂が少しずつ、都市の風景の中から消滅しつつある。
食堂は「めしや」、時代劇で浪人たちが飲んでる、あれだ。
安いアテで酒を飲み、ささっと飯を食べる、今も昔も、
大衆たちの頼もしく優しい味方であり、日本が誇る文化だ。
親子2人で『三ちゃん食堂』に行った記憶は、少年の明日に、
きっとあたたかい思い出となって、いつまでも残るに違いない。
思わず目頭を熱くしながら、もう一杯サワーを注文した。
フカフカのシューマイに、いつもより沢山の辛子をつけて……。
行きつけのカフェよりも、裏メニューまで知ってるレストランよりも、なじみの食堂を持つことのほうが、僕も自慢になるかもしれません。(T.T.)

それぞれの「引き出し」を
つくっているのはこんなひとたちです。