その70/江戸川西小岩あたり、『珍々』の「回鍋肉」

TTATE0727A.png


日本語読みしてしまうと、企画モノな店かと勘違いする。
紺地に白抜きの暖簾をくぐると、どう見ても寿司屋な風情。
まず店名は「つぇんつぇん」と読むが発音は難しいので、
日本人が発音すれば「ぜんぜん」と言ったほうが適切か…。
カウンターにネタケース! つまり寿司屋の居抜き利用だ。
無論、ネタケースに入れるものはないので空のまま、
もしくはただの硝子ケースとして紹興酒が並んでいる。

料理は暖簾にある通り、四川家庭料理なのだが、
僕らが知っている、赤い四川料理とはまったく違う。
そして、どれもが初めて出会う旨さ、感動するのみだ。
まずは「回鍋肉」、と確かにママの黄さんは言ったが…、
キャベツも豚バラ肉も、甜麺醤もどこにもない。
しかも、今日はウサギ、おいしいよ! とのこと。
恐る恐る口に運ぶと、旨い! 辛抱たまらん美味しさ。

いわゆる甘さは微塵もなく、酸っぱくてじわりと辛い。
味の根本は、大量に入れられた生姜の漬け物らしい。
四川の家庭で、ごく普通につくられるという生姜の漬け物。
既に生姜ではない何かに変わっている、うーん深い。
その後も花椒と唐辛子を中心としたスパイス使いで、
四川家庭料理の奥深さと豊かさを思い知らされる。
後で麺を入れてくれた魚の煮物もハチノス炒めも、
さっぱりとした夏野菜の炒め物も全部が美味しい。

でも、初めて店に来た人を驚かせるメニューは、
四川と聞いて誰もが注文する麻婆豆腐の姿に違いない。
まず、そんなに赤くない、豆板醤を使っていないからだ。
そして、定番の挽肉の類いがどこにも見当たらない。
時々、ベーコンやパンチェッタ、あるいはスーチカを、
カリカリに炒めたような豚肉の成れの果てがあるくらい。
豆腐は絹ごしのようだ、とにかく無駄なものが一切ない。


TTATE0727B.png


ストレートに辛く、がつんと来る旨さ、四川の原点な味。
何十年も慣れ親しんだ原宿「龍の子」の四川もいい。
美しくシンプルで繊細な「文琳」、河田さんの四川も好き。
しかし、ここ「珍々」の四川は、そのどれとも似ていない。
これが一切の翻訳も意訳もされていない、四川家庭料理、
実際に四川の普通の家庭で食べられている料理なのだろう。
今度生まれるなら、四川の子になりたい、ふとそう思った。


T・T ディレクトリー   リンクフリー   プライバシーポリシー      運営会社