その75/中野新仲見世あたり、『川二郎』の「ひと通り」

ときどき無性に鰻が食べたくなるときがある。
そんなときには、やっぱりほかの食べ物では、
体も、心も、どうにも納得してはくれない。
ステーキも、焼肉も、鮨も、ホルモンでさえ、
もう眼中には映らない、立派な禁断症状だ。
とは言え、いつでも鰻が気軽に食べれるほど、
自慢じゃあないが、懐に余裕がある訳ではない。
だったら、迷わず中野へ直行するに限る。
まんだらけ発祥の地、今や秋葉原と並ぶ、
世界的なオタクの聖地ブロードウェイの程近く。
いい感じに古びた飲み屋や、中古レコード屋、
アジア臭プンプンの多国籍雑居ビルが立ち並ぶ、
中野新仲見世という昭和な一角の真ん中あたり、
『川二郎』の行列が目に飛び込んで来るはずだ。
『川二郎』は、あの山岡・栗田コンビも絶賛する、
鰻を丸一匹食べつくす、鰻串焼きの名店だ。
一匹から一個しかとれないレバーを並べた串。
普通は捨ててしまう腹骨、ニラと巻いたヒレ。
鰻の首の部分、目から下を開いて骨切りした、
『川二郎』でしか食べることができないエリ巻。
鰻のホルモンとも言うべき、様々な部位を、
炭火でじっくりと焼き上げた「ひと通り」。
ビールや日本酒、焼酎、好きな酒を選んで飲む。
燗酒はジャーから、焼酎は一升瓶からそのまま、
コップにあふれるまで、たっぷりと注がれる。
鰻の肝刺しや、香ばしい鰻の薫製も食べたい。
〆には丁寧に蒸し、焼いたうな丼が千円以下。
そこいらの街の鰻屋でうな重1人前の値段で、
鰻のあらゆる部分、あらゆる美味しさを満喫。
最後にうな丼を食べたとしても懐が傷まない。

今のブロードウェイ近くで昭和30年代に誕生。
屋台から、今の中野新仲見世商店街へ移転。
たくさんの常連に愛された焼き一筋の二代目、
三代目の甥で忙しい店を切り盛りしていたが、
昨年末、二代目は歩いて数分の昭和新道通りに、
食事が主体の『味治(みはる)』をオープンした。
だから、『川二郎』で串焼をアテに酒を楽しんで、
味治に移動、うな丼かうな重で〆るという、
黄金の鰻はしごだって可能になった、いかん、
もう辛抱たまらん、今すぐ中野に移動しよう。

それぞれの「引き出し」を
つくっているのはこんなひとたちです。