その93/神保町白山通りあたり、『TOKU。』の「ホットドッグ」

少年の日に出会った、ひと皿の幸福な記憶を求め、
二十年を越す片思いを完結させた人物がいる。
至福の皿は、かつて浅草で愛されたホットドッグ。
名前と反して、丸いバンズが使われているから、
ハンバーガーという方が通りがいいかもしれない。
しかし、時はマック上陸よりも遥か昔の出来事。
ハンバーガーなんて言葉は、まだ世になかった。

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店の名前は、お好みホットドッグ『ジロー』
下町っ子から旦那衆、観音裏の芸妓さんまで、
みんなが夢中になる浅草六区の名物店だった。
ハンバーグ、卵、ポークソテー、ポークカツ...
お好みの具をカリカリのバンズに挟んでもらい、
我を忘れて、皆ハイカラな浅草の粋を頬張った。

『TOKU。』のオーナーも、三代続いた浅草生まれ。
寿司、洋食、蕎麦、甘味と名店ぞろいの下町で、
どこよりも少年の心と胃袋をを鷲掴みにしたのが、
ジローのホットドッグとホワヰトシチューだった。
浅草寿町の名店「ペリカン」のオリジナル・バンズ、
千切りキャベツと洋食風の味が付いたマカロニ...。
米国流ではない、純国産の洗練は唯一無二だった。

ところが八年程前、店はあっけなく閉店してしまう。
瞬く間に名店の味を求めて、二十を越す企業が殺到。
しかし、二代目は頑として門前払いを決行する。
月日が経ち、誰もが説得を諦めかけてしまった頃、
かつてのホットドッグ少年が二代目の心を解す。
こうして、少年の二十年を越す食への片思いは、
神保町の地で『TOKU。』という花を咲かせた。

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二代目の指導に敬意を表したオリジナルのレシピは、
材料、ソースの配合、バンズの焼き方に至るまで、
一切の手を抜かず、忠実に、丁寧に再現される。
肉類も、野菜も、バンズも、その日の内に使い切る。
もう一つの名物ホワヰトシチューも、毎日作り立て。
さらに水出し珈琲や甘いドッグなどの魅力も加わった。
どこかの店のように、百円玉では食らいつけない。
グルメ・バーガーほどの、徒な豪華さには程遠い。
しかし、この国が作り出した最良の味覚の一つが、
『TOKU。』のホットドッグには満ち溢れている。




それぞれの「引き出し」を
つくっているのはこんなひとたちです。
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