3度目の正直、または僕のマラソン -3-
ホノルルのゾンビたち
2009年12月14日、日曜日。僕らは午前3時半にはホテルを出て、歩いてスタート地点へ向かった。よくパッケージされたツアーだと観光バスで連れて行ってくれるそうだが、僕らはウォーミングアップを兼ねて歩くことにしている。そのおよそ30分の道程でも、ホノルルマラソンならではの光景を見ることができる。
たとえの良し悪しはさておき、率直にはゾンビの群れに見える。まだ明けない暗い空の下、オレンジ色の街燈に照らされた人々は、交差点を越えるたびにその数を増やしてゆく。色とりどりのはずのランニングウェアもみな街灯に染まり、その集団からは熱気とも言えない奇妙な温度が感じられる。それを漂わせているうちのひとりが、僕。
例年と少し違っているように感じられたのは、その数だ。沖縄のマラソン大会にかち合ったからとか、東京マラソンにターゲットを絞るランナーが増えたとか、すでに余波が来ていた世界同時不況の影響だとか、現地ではさまざまな理由が語られたが、いずれにせよ去年より明らかに少なかった。実際に三千人は参加者が減ったらしい。
でも、そうした数字によってホノルルマラソンの本質は変わらないと思う。スタートラインにたどり着いたオレンジ色のゾンビたちはいよいよ温度を高め、視点に定まりというものを失う。そこに漂う空気は、おそらく他の場所や時間では感じられないものだ。
ともに走る仲間――『ランニングスタイル』誌の企画で集った3人の「RSホノルル部」のうち、ひとりはトイレに行ったまま約束の時間が迫っても戻らず、またひとりは感極まって涙をこぼし始めた。
やれやれ、まだスタートもしてないのに、などと思う自分は不遜だ。過去2度の経験があるからと言って、初マラソンの彼らよりどれだけ優れていると言えるんだ? なにしろ42.195キロという距離は、走ってみなくちゃわからないほど長いのだ。
心配していた雨がぽつりぽつり。去年の嫌な記憶がよみがえる。そして午前5時。例年のようにスタートを告げる花火が打ち上がり、見上げる目に雨の雫が滲んだ。
走ってみなくちゃわからない。ついに走りはじめた集団のなかで、そう言い聞かせるだけの余裕はあった。それくらいは初心者にない経験の賜物だと思えた。
