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人間はなぜ困難に立ち向かうのだろうか? かつて、それまで未登攀だったエベレストを史上初めて制したエドモンド・ヒラリー卿は「そこに山があるから」とあまりにも有名なコトバを吐いたが、それを映画に置き換えると何なのだろう?

そうアタマをよぎったのは、先日、監督ウェス・アンダーソンの新作『ファンタスティック Mr. Fox』を渋谷の試写会場で観たときのことだ。ウェス・アンダーソンといえば、『天才マックスの世界』(隠れた名作!)や『ライフ・アクアティック』など、世間にフィットできないキャラクターを、コミカルかつ暖かいまなざしで描く作品で知られているが、この『ファンタスティック Mr. Fox』が一線を画しているのは、これまでの実写撮りではなくストップモーションアニメであるという点だ。

ご存知のとおりストップモーションアニメとは、パペットを使ってミリ単位の動きの差異を1コマ、1コマ写真のように撮影し、すべてをつなげて動画にするもの。よく知られているものではアードマン・スタジオの『ウォレスとグルミット』があるが、1日で実際に撮影できるのはたった3秒分というのだから、気の遠くなる作業だ。シリーズ最新作『野菜畑で大ピンチ』の完成まで5年かかったというのもうなずける。

『ファンタスティック Mr. Fox』も撮影方法は同様だが、通常なめらかな動きを出すために必要とされる1秒24コマの撮影ではなく、半分の12コマ/秒だったため、撮影は比較的短くて済んだはずだが、それでも映画の制作時間としては膨大な時間を費やしたに違いない。人形だって1体では足りないわけで、メインのキャラだけでも複数手作りして、しかも当たり前だがどれもが寸分違わないカタチをしていなければ意味がないから、要するコストと準備は天井知らず。

だいたい撮影現場を想像してみても、大のオトナがみんなアタマを寄せ合って、あーだ、こーだと昼夜構わず、人形いじりをしているのだ。我々傍観者はあきれて思わず笑ってしまうことだろう。しかし、本人たちは崇高な高みに挑むがごとく真剣そのものだ。

では、ひるがえってなぜウェス・アンダーソンはこのイバラの道を敢えて進む決断をしたのだろう?

「……ヒマだったから!?」

いや、それだけはないだろう。それだけはない、と願ってやまない。


3月19日(土)ロードショー
公式ウェブサイト:http://mrfox.jp/