フィクサー その2 (0042.5本目)
字幕の演出
ひと粒で2度おいしい……というわけではないのだけれど、今回も『フィクサー』。
主役のジョージ・クルーニーが演じるのはマンハッタンにある大手法律事務所(かのトム・クルーズの映画ですっかり日本人のボキャにも定着した、いわゆるファーム)で働くマイケル・クレイトン。勤続年数は長いもののファームの共同経営者たるパートナーには昇進できず、“フィクサー”と呼ばれる裏方仕事を専門とする。
そのマイケルが今回かかわることとなるヤマが、大手農薬会社をめぐるスキャンダル。同僚のトップ弁護士(トム・ウィルキンソン)が担当していたのだが、事態は思わぬ方向に急展開する。危機的状況に直面したファームが、水面下で手腕を振るうフィクサーたるマイケルの登場を請う、というのが基本のあらすじだ。
そんなストーリーの序盤でのこと。薄暗く怪しげな一室で行われる違法ギャンブル。そこに客として来ていたマイケルの携帯が鳴る。その携帯のスクリーンに着信を示すメッセージが表示されるのだが、その字幕が注意を引いた。どんなメッセージが表示されていたかは後で触れるとして、字幕はこうなっていた。
「裏仕事専用番号」
なにやらのっぴきならない響きだ。裏仕事。しかしマイケルの仕事が、法律事務所では決して表舞台に出てこない、裏方の、そしてときに違法すれすれの仕事であることを考えればそうなのかもしれない。だが、ここでひとつの疑問が湧く。
「そんな大事な秘密がいきなり携帯画面に出てしまっていいのだろうか?」
たとえば周囲を気にせず呼び出し音を奏でる携帯を手に取ると「裏仕事専用」との表示が。「次の仕事はなんだ?」と思っていると、友人が背後からその画面を覗き込む。そんなことになったらなんと言い訳をすればいいのだろう?
「あ、ごめん、うちの母さんだった」
そんなこと言ったって、信じてもらえる可能性は、太陽が西から昇るくらい低い。そもそも裏仕事をする人間がそんな単純なリスクを負ってはいけない。では、字幕では「裏仕事専用」となっていたが、実際はどう表示されていたのか?
Private number。
そう、「プライベート・ナンバー」だ。どこにも「裏」も「仕事」も「専用」もない。ちなみに僕のノキアもこの表示をする時がある。なぜなら……、
「実は僕も人に言えない裏仕事をしてるのです」
と、うそぶきたい衝動もなくはないが、残念ながらそうではない。まぁイギリスの出版社での仕事が本業(のはず?)だから、この「1000本ノック」はあえて言えば裏仕事。でも、TONAO TIMESから電話がかかってきても、決して「裏仕事」とは表示されない。
では、どのような場合に「プライベート・ナンバー」と出るのか? 答は簡単だ。番号通知をしない設定になっている電話からかかってきたときだ。実際、映画での場面は、パナマだったか、国際電話がかかってくる設定だった。それがどうして「裏仕事専用」となったかは、字幕翻訳者のみ知るのであろうが、想像するに「マイケル=フィクサー=もみ消し屋」との等式をより強く印象付けようとしたのではないか。
「ちょっと字幕で演出してないっすか?」
そう思うのは僕だけだろうか。
ちなみに、この映画自体は今年のアカデミー賞の目玉とされるだけあって、重量級な作品に仕上がっていた。特に、ジョージ・クルーニーは『オーシャンズ』シリーズのようなブロックバスターのみならず、この『フィクサー』や、ちょっと前の『シリアナ』、『グッドナイト&グッドラック』のような骨太映画でも存在感を示していたことを考えると、芸の幅が広い人なんだなあー、なんて改めて思ったりもしました。
4月12日(土)みゆき座ほかTOHO系全国ロードショー
公式ホームページ:http://www.fixer-movie.com/

それぞれの「引き出し」を
つくっているのはこんなひとたちです。