鳴る服
夢のなかの僕は、どこかの学校の、プレハブの部室の裏にいた。
さっきから斜め横で座っている黒いトレーニングウェアを着た男にたずねた。喫煙所ってあるのかな。「そんなもん、ここにあるわけないだろう」。それを聞いて僕は無言でうなずく。タバコが吸いたかったというより、居所を再確認したかっただけなのだ。
誰も使っていない昇降口がすぐそばにあるような、たとえば不良に好まれる場所だったが、校庭の華やかなざわめきはそこまで届いていた。運動会だ。今日は、1年に1回の学校行事の日なのだ。
そして僕は落ち着かない気分になっている。そのうちやってくる徒競争の順番を、あきらめながらも苦々しく思っているのだ。僕は生まれてこのかた、競争の類で1着になった覚えがない。6人で走れば、よくて4番手。4人で走ればビリもありうる。足が速くて出世できるのは、陸上競技の選手くらいのものじゃないか。などとうそぶいてみる。
でも、できることなら誰よりも先にゴールテープを切ってみたい。走った後に1着の赤い旗の後ろに並ぶ気持ちを味わってみたい。けれど、その希望は今日も叶わない。そんなことはカモメが山にねぐらを持たないことより明らかなのだけど、先ほど彼女を見かけてしまったのが運の尽きだ。
トラックを囲む群衆のなかで、その子は僕を見て笑った。たぶん彼女は、僕が徒競争で何番手になろうとその笑顔をくずすことはない。それも、モグラが日光浴を日課にしないことと同じくらい明白な事実だ。
校庭から聞こえる歓声が一段と高まった。同じ組のホワイトライオンとホワイトゼブラが、棒倒しの最中、意見の食い違いで取っ組み合いのケンカをはじめたらしい。
期待などしていない。それでも僕は逃げ出さない。ただ落ち着かなくて、シャカシャカ鳴る服のポケットをまさぐっているだけだ。
そういう夢を見ました。
来週の今日、ホノルルマラソンに向けて出発します。
