170/名もなき下町のいま

名もなき、という言い回しが好きでよく使いますが、現実的には
どんなものにも名前があります。が、その名前を押し出さず、
慎ましく凛としている姿に敬意を表して、名もなき、と呼ぶのです。

その線で行けば東京スカイツリーが建てられた業平、押上周辺は、
まさに名もなき町でした。高校の同級生が押上の先の京島に住んでいて
彼の地元の仲間とも友だちになり、もんじゃ焼きのつくり方や
狭い路地の抜け方等々、下町の風情なんてのをずいぶん教わりました。

そう言えば19歳の頃、押上の女の子と一度だけドライブしたっけなあ。
東京タワーに行ったんだっけかなあ。彼女は元気でいるかなあ。

下町ってのは筒抜けなんだって。どこの誰が何をしてるのか、
隣近所はみんな知っているらしい。それが煙ったくもあり安心でもあり、
とまぁ、いわゆる人情ってやつですね。それから下町の住人は臆病なので
出来上がったコミュニティを捨ててよそに引っ越したりできないそうな。
だから昔からの顔馴染みばかりなんですね。

けれど僕らが高校を卒業して数年経つと、小さな一軒家が連なる路地の
一角にマンションが建ちはじめ、見知らぬ顔が増えていきました。
となれば、たまにしか行かない僕でさえ町の空気の変化に気づけます。
実際、石鹸工場の甘い匂いも消えちゃったし。

そして、東京スカイツリー。長く地元で暮らしてきた人たちは、
あの巨大な余所者をどんな思いで見上げているんだろう? 
最近ご無沙汰なので、ツリーをあっさりスルーし、名もなき町のいまを
見てこようかなあ、とか、開業のニュースを聞きながらそう思いました。


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桜の頃の1枚です。強風でエレベーターが止まったんでしょ?
あんな高いところで缶詰めになったら、と思うとねぇ......。