持たざる苦悩

いくら考えてもせんないことだけど、もし生まれ変われるならどんな男の子に
なりたいかと言えば、これはもうひとつしかありません。駆けっこの速い子。
小学校の低学年くらいからその能力を発揮して、運動会ではいつもリレーの
アンカーに選ばれる。色気づく中学生になったら、足の速さだけで人気者。
人生最初のモテ期到来だね。って、ちょっと古いか。

いやまぁとにかく、僕の人生には持たざる妬みに端を発した劣等感がいくつも
絡みついていて、その最古の記憶は駆けっこだと思うんです。
努力である程度は速くなるんでしょう。でも、小学生あたりまでは持って生まれた
才能がすべてです。位置についてよーいドンで誰がいちばんか。
そのシンプルゆえに残酷な競争によってこの世に優劣があることを知る。
厳しいもんですね。あのときの惨めさはそれから何十年経っても消えないし、
今この歳で誰かと競争するのが怖くもある。
だからと言って運動会で徒競走を廃止するのは話が別よ。
そりゃ足が速く生まれたかったけれど、あるいは何かを打ち返そうとする
原動力にもなる劣等感を否定するわけにはいかないから。
そこですね、大人になってよかったと思えるのは。
かなり苦いけれど、劣等感は人生のスパイスである。なんてね。

ところで女の子はどうですか? 足の速さはそれほど重要じゃないんだろうな。
可愛く生まれるかどうか? だとしたら互いに持たざるもので苦悩するのかしら。
そして、それとは別のものを磨いて生き抜くすべを知る。
豊かさとは不毛の大地を耕すことから始まるなり。なんちゃって。

オオフチさんの『NYほかけ舟』と『仕込み万歳』塩むすび最終話、2本同時更新なり!