若返りの薬

若返りの薬があったとします。それは20年くらい前の自分に戻れる効き目があります。
それがあなたの目の前にそっと差し出されました。さて......?
まず考えるべきは、20年前の自分に戻れることにあなたがどれほど魅力を感じるか。
20歳の人なら0歳です。文字通り人生をゼロからやり直せることになるけど、
20歳くらいで人生をリセットしたいというのもひどく残念な話ではあります。
40歳だったら、20歳になれる。ふむ、どうでしょう。60歳なら40歳。ちと微妙か。
2粒くれ、とリクエストされそうですね。
いずれにせよその薬を飲めば自分だけが若返るわけです。
肌は艶めき、体力は増し、あらゆる欲望に対して期待値が高まる。
若いってこういうことだったなと体感して笑顔が止まらなくなる。
その興奮に慣れた頃、共に歳を重ねた友人たちを見渡してみると
老いるってそういうことだったのかと実感してたじろぐかもしれない。
それでもあなたは自分だけ若返ったことをよろこべるだろうか? 
詰まるところ、元に戻れるのはどれほど大切なのか、という問いかけなのです。
今の自分や、今の自分を取り巻くすべてのものはあまり芳しくないかもしれない。
そこから抜け出したいからひとりだけ若返りを選ぶ、というのも悪くないでしょう。
でも、今持てるものの大方を失うのです。培った経験則は記憶に留まるとしても、
それを20年若返った自分が使いこなせる保証はどこにもない。
別の角度から見れば、20年分の積むべき体験や経験をやり直さなければなりません。
そこには、二度と御免だと顔をそむけたくなることも含まれています。
けれどその薬を差し出す誰かは、様々な可能性など一切説明してくれません。
それでもあなたは......。