134年目の価値

まったくもって役得です。職権応用ですね。乱用ではありません。
先方様がぜひと言ってくださったわけですから。
1882年にスペインでつくられたギターを弾く機会をいただきました。
取材の一環ですから先走りするのはルール違反だけど、とにかく感動しちゃって
書かずにはいられなかったというか......。
アントニオ・デ・トーレスという人の作品です。
トーレスさんは、それまで狭い場所で舞踊の伴奏のためだけに弾かれていた
フラメンコギターに、コンサートホールでの演奏にも耐えるような
構造と響きを加えた新しいギターをつくった方です。
そのトーレスさんの名器が茨城の『ギター文化館』に保存されています。
なぜスペインのギターが日本にあるのか、なぜ博物館ではなく文化館という名称なのか、
そのへんは2月になると僕の原稿が公開される『音遊人』でご確認くださいまし。
さて、トーレスさんのギター。まずは手にした瞬間の軽さに驚きました。
長い年月を過ごしてあらゆる不純物が抜け落ちた感じ、でしょうか。
そして、音の大きさと張りと艶やかさは見事としか言いようがありません。
誕生から134年目ですよ。いい楽器だから大事にされたとしても、
やはりこのギターを今日まで守ってきた人が少なからずいらっしゃったわけで、
その人たちの愛情を思うと胸が熱くなるのです。
かなりの頻度で弾かれているそうです。音を出してこその楽器だからと。
おそらく19世紀の終わりに出た音と今の響きは違うものだと思います。
そこが素晴らしいんですよね。ずっと今の音を奏で続けている。
継承される価値というものに五感で触れることができました。
トーレスさん史上もっともひどい音だったでしょうが、ありがとうございます。