わたしを離さないで

この前がいつだったか思い出せないほど、疲労度の高い読後感を味わいました。
カズオ・イシグロさんの『わたしを離さないで』。
もの凄く奇妙な小説です。文庫で450ページほどある長編ですが、
登場人物たちが抱えている宿命が完全に明らかになるのは400ページ直前です。
そこに至るまで、宿命の詳細を匂わせる違和感に満ちた単語が出てくるんですけど、
それは随時ではなく時折程度なので、かなりもどかしい気分になります。
しかし、その必要性も最後の数十ページで理解できるようになります。
正直なところ、最後まで読めないんじゃないかと思いました。
僕は熱心な読書家ではないので、これは何か違うなと感じたら途中で
すっぱり読むのをやめます。そして、別の本との出会いに意識を向ける。
『わたしを離さないで』もそうなりかけました。
でもそうならなかったのは、間違いなく意図的に点在させた一種の謎解き要素の
強烈な違和感と、退屈とは似て非なるもどかしさにまんまと踊らされたからです。
筆力の強さに打ちのめされました。
オチを明かさないので、未読の方には「何のこっちゃ」でしょうけど、
推測通りの結末が判明したのにこれほど徒労感に見舞われる物語はそうないでしょう。
それは読書自体にではなく、登場人物たちの心情に沿ったものです。
一昨日の鎌倉の帰りに電車の中で読み終えたのですが、
すべて持っていかれたような気になって、車酔いみたいな症状が出ました。
今月から始まるテレビドラマになるんですよね。どう描かれるんだろう。
小説をなぞった展開では映像は持たないんじゃないかなあ、
という期待感を込めて注目です。