経歴の件

10年近く前、当時は知人だったはずの人から、ある専門学校の講師になりませんかと
声をかけられました。春から新設されるという編集者養成講座だったと思います。
いやしかし、講師って、ねぇ。柄じゃないだろうと思いつつ、
ちょっと興味が沸いたりしたので担当者に会いました。
手ぶらじゃ何だろうと、講座も講師もよくわからないなりに
半年分のカリキュラムなど勝手にしたためて持っていきました。
担当者との打ち合わせは、何かこう、気楽な感じでした。
したためたカリキュラムもちらっと見ただけで、すべてお任せするというのです。
そんなにあっさり選んじゃっていいのかと拍子抜けしました。
20分ほど話したところで担当者がこう切り出しました。
「それじゃ郵送で構いませんから履歴書を送ってください」
なるほど、そう来たか......。
他のフリーランサーの場合は存じ上げませんが、少なくとも僕は、
様々なクライアントと仕事する際に履歴書など提出しません。求められることもない。
時には経歴をたずねられるケースがありますが、それはどんな仕事をしてきたか、
つまり業務上の実績に限られます。それ以上に大事なのは、今何ができるか。
見栄えのいいキャリアを並べても、その時々で要求されるアウトプットを出せなければ
僕らが雇われる意味はないわけですから。
しかし、その担当者は、要するに専門学校は僕の履歴を知りたがった。
そこで間髪入れずにこう答えました。「大学、行ってませんけど?」
その発言を最後に僕はひとり取り残され、話した時間の倍近く待たされました。
「後ほどメールします」。やっと戻ってきた担当者のセリフです。
確か当日のうちに送られてきたメールの内容は想像通りでした。
さして残念でもなかったです。いくらか失礼な話ではあります。
けれど、どんなに見栄えが悪かろうと僕の過去は書き換えられないし、
彼らには彼らの基準があるのだろうし。
ただ、もしその場で大学のことを口にしなかったらどうだったろうとは思いました。
それでも結果は同じだったでしょうね。相手に手間をかけさせなかった僕は親切です。
経歴の件があると、僕はこの話を自動的に思い出します。