『矢面に立つ』

ふと思いついた瞬間から頭を離れなくなる言葉があります。
最近は『矢面に立つ』です。説明するまでもなく【ヤオモテ ニ タツ】と読みます。
【ヤオモテ】を、矢の表ではなく面という字を使ったところが意味深長です。
ここで言う矢面は、弓から放たれる1本の矢の表面ではなく、
たくさんの矢を放ってくる敵の正面を指します。
要するに最前線。もっとも危険な場所になります。
『矢面に立つ』という言葉には、微妙に異なる2つの態度が含まれています。
たとえば会社の社員の誰かが不祥事を起こすと、自分がしたわけじゃなくても
会社の責任者たる社長が責任を取らされます。
この場合は、「批判の矢面に立つ」という表現が適当でしょう。
以上のような文脈だと、自分に直接の非はないが監督責任があるので、社長は仕方なく
道義的に、あれやこれや問い質してくる世間の前に立たされた感じが漂います。
すなわち受動的でネガティブな態度です。
その一方、わずかな可能性にかけて仕事の成否に挑む社員に向かって、
「何があっても俺が矢面に立つから」と社長さんが励ましてくれる場合もあるでしょう。
これは能動的かつポジティブな態度。
押し出されようと、自ら歩み出そうと、責任ある立場に就いたら、
自分の目の前は矢面なのだと覚悟しなければなりません。
そして僕は考えます。
誰かを守れる能動的な立ち方ができる人になりたいというより、
『矢面に立つ』という言葉をさり気なく巧みに使いこなせる書き手になりたいと。