森の時代

ひとつのことを長くやっていると、意図したりしなかったりしつつ、
変遷というものが生まれます。たとえばピカソに青と呼ばれる時代があるように。
って、絵画の巨匠を引き合いに出すのは完全なミスリードだな。
こんな僕にも変遷っぽいものがあります。かつてはクルマやオートバイを中心に
本づくりをしていました。その理由は、下地があったから。
男の子ですから、子供の頃から乗り物が好きで、その辺の少年よりは偏屈に詳しかった。
それを武器にこの世界に入ったのです。というか、人に認めてもらえるような
経歴がなかったので、それを武器にする以外方法がなかったわけです。
本当に落ちこぼれだったからさ。
でも、ずっと考えていたのです。いつかそのジャンルから卒業したいと。
でないと本物になれない気がして。
ちょっとズルいでしょ、子供時代の興味をいつまでも利用するのは。
この物言いは反感や誤解を招く可能性がありますね。
子供の頃から夢見た職業に就いている人もいるし、ましてや乗り物業界は
幼い趣味感覚で太刀打ちできる世界でもないから。
なので、あくまで個人的変遷上の判断です。
じゃ何で本物になれるかというと、それは今もわからないんですね。
現実的には昔取った杵柄的に乗り物ジャンルのお仕事をいただくし、
それが嫌いなわけでもない。
ひとつはっきりしたのは、自分の興味は人にあるということでした。
人の話を聞いて、それを文字に換え、誰かに読んでもらう。
これはジャンルに限定されません。時に専門的知識を要する場合もあります。
でも、それを身につけるより大事なのは、人の心持ちをとらえる力です。
心持ちって、完成した製品や作品のように明確な形を持っていないから、
どうとでもとらえられるし、どうにもとらえられなかったりします。
いやまったく、何の準備もなく森に誘われてさまよう感じです。
すごく難しい。でも、おもしろい。
そんなわけで、万が一もないと思いますけど、僕の伝記を書いてくれる人がもしいたら、
現在の僕は森の時代と著してください。
そんな奇特な人はいないね。だから自分で書いているのか......。