日常の中の『金の斧』

正直の尊さ、あるいは優位性を説く物語として有名なのは、イソップの『金の斧』です。
川辺で木を切っている最中にうっかり手を滑らせ、川に斧を落としてしまった木こり。
そこに現れたのは神様。「お前が落としたのはこれか?」と、金と銀。
そして最後に木こりが落とした斧を順に見せ、正直に自分の斧を指名した木こりに
神様はすべての斧を手渡す、というストーリー。
そう、この話を聞いた別の木こりがわざと斧を川に放り、「私が落としたのは金の斧」と
答えると、神様は何も渡さず消えたというのがオチでした。正直者は救われる......。
でも最初の木こりは、それが金であれ銀であれプラチナであれ、自分が使いやすい
重量バランスでつくった使い慣れた斧以外は欲しくなかったんじゃないだろうか。
とすれば、正直のベクトルは物語が諭す方向とはいささか違ってくるのでは? 
なんて解釈はへそ曲がりですね。失敬。
土曜の昼下がり。登録していない番号からの電話に首を傾げながら出てみると、
先月まで借りていた駐輪場の大家さんでした。
「タムラさん、1カ月分多く払ってくれたみたい。これ、お返ししなくちゃ」
実は月末に払うのは当月分か翌月分か、よくわからないまま最後の振り込みをしました。
契約書を確認すりゃいい話ですが、未払いを問い質されるのも跡を濁すような気がして。
で、その電話で『金の斧』がよぎったんだけど、言わなきゃ気付かないのにと。
事実、僕はすっかり忘れていたんだし。正直な大家さんに心打たれました。
神様じゃないから、せいぜい金の包装紙のお菓子詰め合わせしか携えられないけど
近いうちに過分を受け取りに行きます。
うん? 引っ越す前の家賃はどうだったんだろう?