保留と先行

保留と先行。どことなく意味深い気がしますね。チェロの話です。
抱き枕ほどの大きさで、座って弾く弦楽器。いつ何がきっかけだったかは
実にあやふやだけど、いつか弾いてみたいと思い続けてきました。
クラシック音楽界に殴り込みをかけてやろうなどとは考えちゃいません。
ただ、サンサースの『白鳥』1曲を弾きたいだけなんです。ちょっとした野望ね。
けれど、なかなか取っ掛かりをつかめずにいました。そこに出会いが......。
いつものコーヒー屋。狭い店内ながらも遠くのほうで、
「彼女、チェロ奏者なんですよ」と初めての客を紹介する声が聞こえました。
むむむ、です。
それがいわゆるナンパだとしら強引すぎて嫌われるくらい、
気が付いたときには無知な疑問の数々を前のめりでぶつけていました。
親切な演奏家でよかった。そこで教わったのが、保留と先行。
ギターを弾ける僕の不安のひとつが、チェロには音階を表すフレットがないこと。
ギターの竿、つまりネックに刻まれる横棒です。これがないと、どこにどの音が
あるのかわからない。感覚的に音階を覚えるしかなんだろうけど、
さてどうしたもんだろうと。そこで、保留と先行なんだそうです。
最初に出す音の位置に指を保留した後、その先の指使いを覚えていくらしい。
合ってんのかな? その場ではつい「へぇ~」などと答えてしまったけど。
「白鳥は3度にまたがるので難しい曲ですけど、楽しめればきっと必ず」
もはや先生と呼んでいた彼女は優しい笑顔で言ってくれました。
すべからく出会いには保留と先行があるようです。
要するに、どんなに気持ちが先行しても、チェロを手に入れない保留が続けば
出会いの前と何も変わらない。どうするんだオレ?