職業上の刷り込み

きっと誰にでも刷り込みがあると思います。僕の職業上の一つは、
編集の専門学校の執筆講習の先生が講義で話してくれたことです。
「もっとも大事なのは締め切り」。要するに約束を守るという、至極当然の話。
ところが出版界では、あって無きのごとき的な慣行になっていたりします。
ドラマなんかで「またあの作家、締め切り守らないよぉ」みたいな。
その先生はこうも話してくれました。
「最上級は、締め切りを守った上でよい原稿を出すこと。
最低なのは、締め切りを遅らせた上にひどい原稿を出すこと。
だから、多少内容が悪くてもまずは締め切りを守ることを考えてください」
当時の僕は、フリーランスの物書きになるとはまるで考えていませんでした。
そして現実に、専門学校を卒業してから編集制作会社に入り、
書き手に原稿を依頼し、締め切りを設定する編集者になりました。
するとやっぱり実在したんです。締め切り無視の慣行が。
しかも「先生、本当でした」ってほどに、締め切りを守らない上に
ひどい原稿を平気で出してくる輩があちこちに。
これじゃ仕事が進まないと怒りにも似た迷いを覚えたことが、
自分で原稿を書く道を選ばせたのです。
本音を言えば、オレのほうが上手に書けると思ったんだなあ。
とまぁ、今となってはもろもろの輩たちに感謝ですね。
ただし、「最上級」に達しているかと言えば大いに疑問だし、常に不安の種です。
ですから、まずは締め切りを守ることだけ徹底して今日も精進しております。
締め切りが重なり、くぁ~って気分になると、
もはや30年以上も前の講義の断片がありありとよみがえります。
カルガモの子供のように、先生の言葉を必死で追いかけるみたいに。