旅の恥は

「旅の恥はかき捨て」という諺は、僕らのようなドサ回り取材をする者に
とって時に免罪符になることがあります。そしてまた、遠距離的な「旅」を
近距離的な「取材」と言い換えると、その効能はさらに幅を広げます。
でも、ありがたい諺ってのは、逆もまた真を含んでいるんですよね。
だから要するに、二度と行かない場所、再び会う可能性が低い人に対して
何をしてもいいわけじゃない。
というような話を、先日の取材で若い担当者にしたのです。
ほぼ初めての地方取材らしく、上司に指示されたタイムスケジュールを
記したノートを常に胸に抱えていました。初々しいですね。
あるいは僕のようなドサ回り慣れした人間は猛獣のように見えて、
かなり緊張していたのかもしれません。
それはさておき、彼が提示したタイムスケジュールには無理がありました。
記事のボリュームを考えたら妥当に思える時間配分ではあるけれど、
複数の取材先を移動し、多忙の中我々に時間を割いてくれる人々との
会話を考えたら、その計画は希望的観測に過ぎないことが最初から明白でした。
経験値といういやらしさを身につけた僕は、無理が生じることを予言しつつも
「ひとまずやってみようか」と言い、結果その通りになってから、
「ほらね」としたり顔を浮かべました。
いや、意地悪をしたかったわけじゃなく、すべては経験ですからね。
知ってほしかったのは、自分たちの都合ばかり押し付けないこと。
そして、旅の恥は拾い集めておくこと。
たとえば胸に抱えたノートに記しておくとか、ね。
ったく、こういう話をすると昔の自分を思い出しておこがましくなるけれどね。