モノ

コインランドリーに向かうべく、IKEAの青いバッグに湿った洗濯物を
放り込み、肩にかけて自転車を漕ぎ出す。着衣は部屋にいるのと大差なし。
そんな完全無防備で踏切の電車通過を待っているときに限って
見知らぬ人に声をかけられます。日本語の達者な外人さんでした。
「ワタシ、それと同じブランド、乗ってました」
僕の自転車と僕の顔を見渡しながら、何かもう人のよさそうな笑顔です。
「でも、ワタシのはもっと安いヤツ。それはカッコイイね」
いや、僕のはライセンス生産品だからレギュラーモデルより破格なんすよ。
「そうなの? それでもカッコいいですよ。けど、これ付いてないね」
外人さんは指差しました。自分の自転車の黒いバッテリーケース。
つまり電動自転車。それってズルいっすよね。坂道じゃまずかなわないもん。
「そうそう。これズルい」。そう言いながら外人さんは、
遮断機が上がった踏切をするする走り抜けていきました。
この世にあるモノのほとんどはお金で買えます。
だから僕は、誰かが何かを、特に高価なモノを持っていることを理由にした
取材があまり得意ではありません。もちろん、なぜそれを手に入れたか、
手に入れた後で何が起きたかに個々の物語があるわけだけど。
とは言え、好きで持っているモノを褒められるのは悪い気はしませんね。
それが完全無防備状態であっても。
ただ、僕の自転車は餞別みたいにしてもらったものだということを
あの外人さんに打ち明けられなかったのがいささか残念。
するする走り去っちゃったからね。
いつだって電動アシストはズルいと思うなあ。