もうひとつのニコライ堂

幕末に開港された街には、どこも元町という町名が存在するようです。
函館の元町で最古の教会、『函館ハリストス正教会』で、
「耳が遠くてごめんなさいね」と切り出した
係のおじいさんからこんな話を聞きました。
この教会は、ロシアからキリストの正教を伝えに来たニコライさんが
つくったものだそうです。日本大主教と呼ばれた方で、
最後は日本で亡くなりますが、お茶の水にあるニコライ堂も
この人の呼びかけで建てられたんですって。
ちなみに、あの立派なドームを持つ建築物の正式名称は東京復活大聖堂。
僕はキリスト教徒ではないけれど、ニコライ堂の佇まいは
昔から好きだったので、函館にその源泉があると知って小さく驚きました。
そうしたら係のおじいさん、耳の悪さなど微塵も感じさない
はっきりした声で教えてくれました。
「ここもニコライ堂っていうんですよ。正式名称じゃないんですがね、
皆さん昔からそう呼んで親しんでおります」 
そこで僕は思いました。宗教そのもの以上に人の存在は尊いなと。
恐れ多い表現ですが、教会の中で感じた良い気の流れは、
この街の人々の変りなきニコライさんへの敬愛そのものではないかと、
そんなふうにも思えたのは、
うれしそうに話してくれたおじいさんのおかげです。