歳の近い飲み仲間がその話題を僕に振った理由は不明ながら、僕に聞いてよかったと彼は言ってくれました。オートバイに乗りたいんだそうです。
ふむ、オートバイ。僕は昨年の夏に、20代後半から持ち続けた古い1台を手放してしまったので、もはやオートバイ乗りの自負がないんだと、まずはその件から切り出しました。いわゆるどうでもいいプライドに紐づく感傷を少しでも理解してもらえたらと思って。
「ああそうなんだ。それよりも、この人生で一度は北海道ツーリングをしてみたいんだけど、どうかな?」
やはりプライドなんて「それよりも」扱いなんですね。傷ついたりはしません。元々どうでもいいものだから。
さておき彼は、いまだ二輪免許を取得していないものの、何かの動画で見たオートバイ旅の素晴らしさに感動して、若い頃からの憧れを叶えたくなったんだそうです。しかし、何かにつけ理想と現実、虚像と実像には大きな落差が潜んでいるものです。
たとえばオートバイによる北海道。僕も仕事で行かせてもらいました。ベストシーズンは夏。というか、夏以外にはあり得ません。少しでも季節を外したら一日中凍えなきゃならないし、夏でも雨に降られたまま日暮れを迎えると、やはり「来なきゃよかった」と嘆き悲しむことになります。無論、路面が濡れれば危険性も増します。
それから北海道で驚いたのは、「この先150㎞ガソリンスタンドなし」の看板でした。あれはヒグマよりビビります。
そういう旅のリアルが、彼の見た動画で語られていたかどうか。いや、若い頃からの憧れに泥を塗るつもりなどないんです。ただ、常に外気に身を晒すオートバイには、相応の辛さがあることだけ知っておいてもらえたらと。まぁ、辛い体験も土産話になるんですけれど。
「へぇ、そうなんだ。いいこと聞いた。やっぱり一度は行ってみたいなあ」
何かね、一途な彼にはネガではなくポジな経験談になったみたいです。それならいいのだけど、会話の最後で、愛車を手放したあとはどうしているのか聞かれました。仕事では乗せてもらっていると答えたら、それまでにないシニカルな表情でこう言われました。
「いい仕事、してんなあ」
それは憧れから来ている感想ではなかったみたいで、なぜか申し訳ない気分になりました。

そんなわけで昨日も、オートバイに乗せていただけるお仕事でした。
