渡難

「これで何度目?」と呆れながら、繰り返し観てしまうドラマや映画があると思います。僕のそれは、『Dr.コトー診療所』。この1カ月余り、2003年と2006年のテレビシリーズ全22話と、その間に放送されたスペシャル版2本。さらには2022年に公開された映画のすべてを再鑑賞しました。執着が強いタイプなので、こういうのは一度取り掛かると途中で引けなくなります。
そして必ず、泣く。特にテレビ第1シリーズの第8話。医師としてやり直すため最西端の島の無医村に来たコトー先生が、この島で診た患者を始めて亡くす回ですが、どうしようなく落涙必至。思い出すだけでも感極まります。
20年近い年月を要したこのドラマは、最初から最後まで優しい湿り気を感じました。その類稀な空気を醸したのは、ロケ地になった与那国島の自然だったと思うのです。それをどうしてもこの目で見たくて、あれは確か第1シリーズが終わった翌年の秋。あらゆる手段を講じ、取材という形で訪れました。要は聖地巡礼ってやつです。
おおむね、あるがままの自然に満ちた場所でした。10月でもまた暑くて、けれどそれとなく風には湿り気があって。ただし島を巡る道路では、まず人と出会わない。その代わりと言ったら何だけど、おそらくタイトルバックでコトー先生が自転車を漕いだ海沿いの道には、放牧された牛があふれていました。よけきれないほどの馬糞だらけ。撮影時はどうやって片づけたんだろうと心配になるほどでした。
ふと道を外れれば、ジャングルと呼ぶに等しい森が待ち構え、漁港の堤防からのぞく海はどこまでも澄んでいて、色鮮やかな魚に手が届きそうに見えました。
2泊の滞在中、何度か訪れた食堂のおばちゃんが、お土産にと手渡してくれた泡盛も懐かしいです。その名前は、渡り難き島を意味する『渡難/どなん』
2016年3月、台湾有事への対応を目的に、与那国島に陸上自衛隊の駐屯地が開設されました。さらにここに来て、迎撃ミサイル部隊の配備計画も持ち上がっているそうです。そんなきな臭い流れを受けた島は、僕が見た20年前とは何かが違っているかもしれません。あるいは人も牛も。渡り難き場所にしたくないので、またいつか必ず訪れたいと心に誓っています。

最近はいろいろあるんだと、つい手を伸ばすのは良い癖とは言えないな。

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