またまた野球の話で恐縮ですが、興味深いネタを見つけてしまいました。111年前の今日から東京朝日新聞で『野球と其害毒』という連載記事が始まったそうです。害毒って、なかなかに強烈なタイトルですよね。
現在の読売ジャイアンツが創設される23年前の1911年当時は、大学野球が異常な盛り上がりを見せていたらしいんですね。学生が野球をやるのは教育の一環にも関わらず、選手たちが学生の本分を忘れるほど世間から持てはやされるのはいかがなものか? そのあたりに喝を入れるのが記事の目的だったようです。
著名人の野球批判談話が特徴で、たとえば府立第一中学校(現在の都立日比谷高校)の川田正澂校長は、野球の弊害四か条を掲げ、その第三でこんなことをおっしゃっています。
「慰労会などの名目で牛肉屋や西洋料理店に上がって堕落に近づいていく」
そういうことが実際にあったんでしょうね。学生の分際で生意気だと。なるほど。一方で順天中学校の松見文平校長は、医学的っぽい見地を述べておられます。
「手の甲で強い球を受ける振動が脳に伝わって脳の作用を鈍らせる」
野球が日本に伝わって今年でちょうど150年ですが、その間に野球をやった人がみな脳の作用を鈍らせたかというと、どうなんでしょうか。これも学生野球人気に対する偏見の匂いがします。
今日的にもっともショックなのは、連載第1回に登場した新渡戸稲造さんのコメントです。
「野球という遊戯は巾着切りの遊戯」。巾着切りとはスリを意味します。「相手を常にペテンに掛けようと、四方八方に神経を配る遊びである」と一刀両断されているんですね。『武士道』という名著を書かれた方には、団体競技がそんなふうに映ったのかもしれません。
けれどこの連載は、9月22日までの22回で終わります。ライバル紙が『害毒』に対する反論記事を張ったことも影響したようですが、結局のところ東京朝日新聞は出る杭を打てなかったわけです。
以上のエピソードから何を教訓とするか。う~ん、メディアの批評眼も一考しなくちゃいけないだろうし、日本人と野球の関係性も突き詰めるべきかもしれませんが、単純なところでは、おもしろいものが流行る力は誰も止められない事実の振り返りって感じでしょうか。何というか、野球に歴史あり、ですね。
いずれにせよ害毒が打ち消された結果、僕は今でもスリのような野球を楽しめています。脳に幾ばくかの影響があるやもしれませんが。

子供たちって、あの陽射しの下で動き回ってもクラクラしないんだね。
