見るじゃなく、観る

「オリンピック、みますか?」
これは近所のバーのマスターが、その晩最初に投じてきたセリフ。この場合の「み」にあてる漢字は、「何か日本じゃイマイチ盛り上がってない感じじゃないですか?」と言葉を続けたマスターの意向を汲めば、何気なく目に入るケースで使う「見」が妥当と思われます。
そして僕の返答は「ふむ、みるかな」。ここでもまだ僕の感覚的には「見」でした。ちょっと醒めたマスターに同調したわけではありません。それは最近のオリンピックに対して興味が低下気味の本心を表した、わりと素直な反応でした。
「柔道、楽しみじゃない? また兄妹が金メダルを獲りそうでしょ」
僕の曖昧な態度に業を煮やしたのか、カウンターから話しかけてきたのはインド人の男性でした。見た目の印象は完全に外国人だけど、日本語が流暢で、なおかつ日本のオリンピック選手をよく知っているので、かなり日本在住歴が長いのでしょう。
「そう言えば、男子サッカーの予選はもうすぐ始まるんじゃなかった?」
これまたインド人の言葉。するとマスターは、「開会式前から試合があるんですね」
僕は、その試合の中継が25日の午前2時くらいか始まることを知っていました。ライブで見るつもりはなかったのだけど、スポーツ関連の情報は無意識のうちに目にしてしまうのです。
「でも、バレーボールも楽しみですよね。男女とも強いし」
今度は、語感的に「見」を選んだはずのマスターが食い込んできました。そしてついに僕も「バスケも興味深いよね」と口にしてしまった。その流れでいろんな競技が頭に浮かんできたのです。水泳、体操、卓球、レスリング。バドミントンにゴルフに陸上。それから普段あまり目にしないアーチェリーや自転車やカヌーも、テレビでやってたら見ちゃう。あるいは新競技のブレイキングも、どんな展開になるのか気になる……。
それって見るじゃなく、観るじゃん。これはバーの中で誰にも知られず行った自分自身へのツッコミ。結局のところ、何のかんの御託を並べても、スポーツ好きとしては観察・鑑賞に値する視点でオリンピックを観てしまうんです。なのにこのねじれた感覚って、何なんでしょうね。思わずあふれる母国愛を悟られるのが恥ずかしいのかな。
この話題を絞めるようにしてインド人が教えてくれました。「パリとの時差は7時間ね。みんな寝不足になるね」
おっしゃる通りになりそうで怖いです。でも、バーでの話題は当分事欠かないんだろうな。

新札はじめまして。すぐに使えない気がする。

 

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