ベッドルームの照明器具に不具合。蛍光灯を新品に換えてもすぐに消えてしまうので、大家さんに連絡したら「業者を手配します」。となれば、この部屋に見知らぬ誰かが入る……。
いわゆる業者の方々は、依頼を受けたお宅での作業に慣れているはず。ゆえにそこで見たものに関心を示す言動は、職業倫理的に慎まれると思います。でも、感じないことはないですよね。間取りや家具などから、年収や趣味を洗い出すのが得意かもしれない。それはそれで止めることなどできず、口に出さないならいいやと割り切る他ありません。
その上でひとつ心配になったのは、片づけ切れないものたちの存在でした。特に、ベッドルームの隅に押し込んでいるギターケースたち。ここだけの話、この部屋は基本的に楽器禁止。それが見つかったら、ちょっと厄介だぞと。だから、長細かったり窪みのある箱が何なのか、まるでわからない人が来ることを小さく祈っていました。
「野球やってるんですか?」
瞬く間に作業を終えた電気屋さんが、帰り際に言ったセリフです。それも棚の上から片づけ切れないものたちでした。ぽろぽろと置いたたままのグローブたちに目が留まったみたい。
「アンダーアーマーのファーストミットは珍しいですよね。しかも型がついているので、相当やってらっしゃるのかと」
心の中で、「そっちか~い!」と叫びました。しかし、それを珍しいと言えるなら野球に詳しいと思って、あなたも? とたずね返してみたのです。そうしたら、中学生の選抜チームでコーチをされているそうな。
「昭和の人間なんでね、今の子に教えるのは難しいですわ」
そうでしょうと相槌を打ちつつ、けれどそのチームの中から強豪校に進学する子もいるのではと重ねて問うと、僕も知っているいくつかの校名を教えてくれました。その顔がほころんでた。
そんな業者ばかりとは限らない。だからできるだけ、悟られるものを少なくして部屋に招き入れなければ。とは言え、僕はささやかなラッキーを得られたようで、うれしかったですけれどね。電気屋で野球のコーチで、なおかつギター類に関して何も口にしなかったなんて、かなりの逸材ですよ。

何となく、接写してみたかっただけ。
