普段の生活の中で耳にしなくなった言葉を死語と呼んだりしますが、ローマ字はどうでしょう。少なくとも僕の周りでは聞かなくなったし、自分でも口にしなくりました。ただ、ヘボン式と言われると、ローマ字がらみの何かだったという微かな記憶がよみがえります。曖昧なので調べてみたら、由来は人名でした。
1859年、というのは安政五年の江戸時代末期。宣教師としての布教と、医師としての医学普及のため来日したジェームス・カーティス・ヘボンは、男女共学の塾を設立するとともに、和英辞典の編さんと聖書翻訳に着手。その際、日本語をラテン文字で表すため生み出したのが、後にヘボン式と呼ばれるローマ字表記でした。
ヘボン式の特徴は、英語の発音に寄せたところだそうです。たとえばHepburn.有名なオードリーと同じヘボンさんの名字ですが、これを僕らが慣れているローマ字読みからのカタカタに直すと、ヘプバーンになりますよね。しかし英語環境で育ったHepburnさんをヘプバーンと呼んでも振り返ってもらえないでしょう。そこでヘボンさんは、自分の名前を片仮名で表すとき、英語の聞こえ方に近い「ヘボン」としたそうな。
他方で同時期には、日本人の中からも日本語のローマ字変換に力を注いだ方がたくさん出たようです。その一人が、五十音図に基づくローマ字綴りを提案した物理学者の田中館愛橘(たなかかだてあいきつ)。これは日本式とされ、後に訓令式と呼ばれるようになりました。
ヘボンさんと田中館さんのローマ字は似た部分が多いのですが、たとえばヘボン式の「ち」は「chi」で、日本式は「ti」であったり、長音等の表記の記号が異なったりしています。そうしたいくつかのローマ字表記は、長い時間をかけて揉まれ、一定の方法にたどり着きました。それが昔の話かというと、今の文化審議会でも見直しの議論が行われているんだそうです。きっと日本語を世界中の人により良く理解してもらうために。
この話を持ち出したのは、今日が『ローマ字の日』と知ったから。それを伝えるPCの文字入力がローマ字式だったことに気づいて、改めてハッとなった次第です。ヘボンさんや田中館さんたちに感謝を申し上げなければ。

疑似梅雨で既に鬱となる気分を癒してくれる路傍の草花。
