いい声

声がいいと言われました。場所は、いつもの飲み屋。言ってくださったのは初めてお会いする方で、他に客もいなかったから座持ちのための社交辞令に違いありません。そう確信したのは、何より自分の声がいいだなんて思ったことがないからです。とは言え、嫌いというほどでもなく、望んだところで変更できない顏の造りや手足の長さと同様に、「まぁ、こんなもんだよな」と致し方なく受け入れているだけです。
なので、ひとまず褒めていただいたことにお礼を述べつつ、決してそんなことはないと返しました。それで会話が終わるかと思いきや、意外にもその方は言葉を続けてきたのです。
「声そのものがいいというか、喋る声が通るんですよ。とても聞きやすい」
やっぱり声がいいんじゃないんだ、とは口にしませんでした。でも、通る聞きやすい声と言われたのはうれしかったです。インタビュー取材で培った技量が日常にも反映されてる可能性を確認できたから。まぁ飲み屋ですから、仕事のスイッチを入れたつもりもないのだけど、そんなふうに耳に届いたならよかったなあと。
対話をしながら、いかに先回りして的確な質問を用意するか。これはインタビュー取材の要です。そしてまた、質問を伝える口調は、丁寧であるのは当然として、それ以上に親密さを醸すことが重要だと思っています。要は話しやすい雰囲気づくり。ただし、親密さに偏ると告白めいた発言を引き出してしまい、結果的に記事にできなかったりする場合もありますが。
そんなふうに会話術なりを研究している身としてがっかりさせられるのは、契約や勧誘の電話です。彼らの口調や声音は極めて丁寧。おそらく然るべき訓練を積まれているのでしょう。ただし、先方にとってイレギュラーっぽい質問をすると「それは別の者が別の機会に」となりがちで、知りたいことが先送りになります。やがて予定外の時間を費やすことに焦りを覚えるのか、この電話で取るべき確約を急ぎ始める。笑っちゃうんですよね。この人も大変なんだろうと。
今時の電話連絡には難しい要素があるのはわかります。また、僕みたいな厄介なヤツに当たったのも申し訳ないと思います。けれど、できればもっと話したくなるような親密さを湛えた喋り方をお願いしたい。せっかくいい声をお持ちなのだから。

日没間近の雨って、久しぶりな感じ。

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