僕にはよくないところがたくさんあります。そのひとつが、一度見ただけの顔をよく思い出せないこと。そのおかげで困惑するのは、こんなケースです。
近所圏内の二つの飲み屋。その方が言うには、僕と初めて会ったのはA店だったそうです。そこでのことを、偶然遭遇したB店で親しげに伝えられました。「トナオさんですよね?」と切り出されて。
こういうケース、びくっとなります。僕はその人をほとんど記憶していないから。なおかつ仕事じゃなければ自分から名乗ったりもしないのに。とは言えB店で遭遇した瞬間、何となく見覚えがあるような気にはなりました。けれどそれも、向こうが先に僕の顔を凝視したせいかもしれません。
「あのとき長女がいっしょにいたでしょ。ようやく就職が決まりましてねぇ」
それはおめでとうございますと口にしたものの、あのときがいつかも、いっしょにいた長女もとんと思い出せない。なのに向こうは、たぶん二言三言の会話や僕の対応をしっかり覚えているご様子。声をかけてくれたということは、おそらく嫌な初対面ではなかったはず。でも、怖いですね。自分の記憶が希薄なだけに。
何であれ、こっちはよくわからないまま楽しそうに喋りかけてくれる方には、毎度申し訳なさが募ってしまいます。とにかく、ちらっとお見掛けする程度の方々であっても記憶を定着させる努力をしなければならないんだろうな。気軽に飲めなくなるのは大変そうだけど。
しかし今度は大丈夫。僕にぜひ紹介したい先輩がいるという話までしてくれましたから、もう知っているふりを装う必要はない。なのにお名前を聞きそびれた! 次に会ったときどう聞き出せばいいんだろう。オレ、本当によくないな。

ご無沙汰だったガソリンスタンド解体工事現場。更地になったあと次章が始まる予感が……。
