原稿書きを生業としておりますので、この国の単語はできるだけ多く知りたいと思うわけです。ただし業務においては知るだけでは足らず、使いどころを見定めるセンスはもちろん、上手に使いこなす鍛錬も必要です。
たとえば、滅多に見かけない四字熟語を目にして、「こういうのを文章に織り交ぜたら頭がよさそうに見える」とスケベ根性を出してみても、サイズが合わない貸衣装をまとうようなぎこちなさが漂えば、文章の流れに淀みが生じてしまいます。また、それ以外にハマるものなしという場合を除き、あまり知られていない単語の採用は、読んでくれる人を困らせるだけです。
おそらくもっともスマートなのは、難解な話を平易な言葉で伝えるスタイルでしょう。それを広く読んでほしい文章書きで目指すなら、誰でも知っている言葉の巧みな連携を心掛けるのが基本になると思います。
とは言うものの、言葉のおもしろさに興味を持ってこの仕事を続けている以上、スパイスを効かせる意味合いで、「こんなのもありますよ」というような、日常会話ではあまり使われない単語をしれぇっと挿し込んだりもします。その類として、ここでよく使う一例は「いささか」でしょうか。数量や程度が小さい「ほんの少し」や「わずか」という意味ですが、乾いた感じの音が胸中の引っ掛かりを示してくれるようで、僕はけっこう好きです。ただ、現代的でないものを多用するとジジイ扱いされそうで、そこは頻度を考慮しなければなりません。
本日ご用意したのは、「鼻白む」。これも時々利用する、「はなじろむ」と読む動詞です。不意に困難な状況に直面したとき、鼻の周囲が蒼白になる様子が由来らしい。そんなわけで意味は「気後れする」や「興覚める」。字面や音の抜け具合に残念な感じが漂うのがいいんですよね。けれど、この言葉が真っ先に浮かぶような場面にはあまり遭遇したくないものです。
7月7日に行われる東京都知事選挙の選挙公報が届き、一通り眺めてみました。全14ページに立候補者56名。一人に与えられるスペースには限りがあり、多くを表記できないのは仕方ないにせよ、全体的にファンタジーが過ぎる印象を持ちました。あくまで個人の意見です。これ以上は申しません。ただ、有権者に鼻白む思いを抱かせていいんだろうかと、それが心配なだけです。

あれこれ騒ぎになった末に、今はこんな感じで板白んでた。
