最初の三億円事件が起きたのは、僕が6歳になって3か月後の1968年12月8日でした。「最初の」としたのは、有楽町で1986年、練馬でも1990年に約三億円の現金強奪事件があったからです。しかし、社会に与えたインパクト並びに犯人が捕まらず迷宮入りになった経緯において、最初のそれは歴史的三億円事件と称していいでしょう。いやいや、犯罪は賞しませんが。
子供ながらも世間が大騒ぎになったことは、テレビや新聞の報じ方でびりびりと伝わってきました。ただし10円で駄菓子屋を楽しめた時代だったので、三億円の価値などまるでわからなかった。何しろこの国はまだ貧しかったから、全国民的にも雲をつかむような大金という認識しか持てなかったと思います。
その日、現在の東芝府中工場の従業員に支給するボーナスを積んだ現金輸送車が、国分寺の銀行を出発したのが午前9時過ぎ。ほどなくして差し掛かった府中刑務所裏の学園通りで、追い越しをかけた白バイ警官が停止を要求。爆発物が仕掛けられているという情報をもとに車両の探索を始めた警官は、クルマの底にダイナマイトが見つかったと発言。それを聞いた乗員は退避。その間隙を縫って白バイ警察官が現金輸送車を奪って逃走。そしてついに三億円は戻らず、事件も時効を迎えました。
件の三億円は、3つのジュラルミンケースに収められていたそうです。ケースを開けて中身を確かめた犯人はどう思ったんだろう。いずれにしても相当数の札束だから、その質量に震えたんじゃないでしょうか。
ちなみに、従業員のボーナスには保険がかけてあったので支給に支障なし。またこの事件は、給与等の支払いが銀行振り込みに変わっていくきっかけにもなりました。
それから半世紀以上が過ぎ、キャッシュレスが普通になった現在では、そうした超多額の現金強奪事件は起きにくくなっています。よいことだと思います。その一方、あくまで個人的な意見ですが、電子化されたマネーによる事件で取り沙汰される金額に触れても、震えるような気持ちが沸き上がりません。それは「現ナマ最強!」が刷り込まれた世代的な感覚に他ならないのでしょう。学生時代のアルバイトだって、職種よりも現金取っ払いの条件を優先したくらいだったし。
「時代錯誤も甚だしい」と笑いますか? ではなぜ今日から新紙幣が発行されるのですか? なんてのは水掛け論だけど、お札の厚みが有難みの度合いに比例するよろこびが今後も保障された点に鑑みても、今日は旧世代にとって感謝すべき日になります。

さっき買ってきたもの。
