西瓜/スイカ/すいか

子供の頃は必死になって食べていたのになあと。ならば大人になってからなぜ口にしなくなったんだろうと不思議に思うのがスイカです。すごく好きだったんですよね。赤い実を頬張りたいがために種すら除けるのを面倒臭がり、緑の部分まで徹底的に攻めるほど齧っていました。あるいは、スイカが食べたいから早く夏が来ないものかと願ったほどに。
何がよかったんだろう。甘くて水分が多いから? いや、特に理由などなく、旬のものとして体が欲していたのでしょう。なのにウチの弟は、メロンのほうが好きだと言い放った。カブトムシの匂いがするから嫌だと。僕にすればメロンのほうが接着剤のセメダインの匂いがするのに、ましてやメロンなんてウチみたいな庶民の食卓じゃ滅多に上がらないのに何を言うのかと。
そんな弟の味覚に対する疑問を、当人にぶつけたりはしませんでした。年子の弟の趣味はなぜか渋め傾向で、スイカを貪るような兄を冷めた目でみるところがあったんですね。年長をガキ扱いする態度は釈然としない。なのにスイカをやめられない自分が恥ずかしかったから、少なくとも弟の前では無言で齧っていたのかもしれない。
だから大人になった証として、スイカを口にしなくなった。これは有力な仮説のひとつ。子供の食べ物と考えるようになったわけではありません。ただ、丸一個はさておき半個を買ってもいつ食べるんだとか食べ切れるのかとか。食べ切れないに買うのはもったいないとか。それより冷蔵庫に入るんだっけとか。要するに客観的な視点が先に立ち始めた末、スイカを遠ざけるようになったんだと思うのです。何にもとらわれず腹いっぱい食うことしか頭になかった頃が懐かしい。あと、もったいないという言い訳を使うわりに酒の買い溜めはできるから、ずいぶんズルくなったもんです。
西瓜/スイカ/すいか。個人的にもっとも甘くて美味しく感じる表記は「すいか」です。しかし、平仮名だと文章内に沈んで読みにくので片仮名にすべきと、そういう大人っぽい配慮の優先を含み、スイカにまつわる思いのすべては、無邪気でいられた時代の自分につながるみたいです。スイカが邪気を受け付けないなら、嫌われたのは僕のほうってことなのかな。

ベタですが……。久しぶりに買ってみました。

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