母親の診察に付き添う日でした。病院までの道順はもちろん、受け付けから会計、処方箋をいただく段取りもすっかり覚えましたが、診察を待つ時間は慣れません。当然のことながら、そこに来る人は何かしら健康を害しているわけですから、比較的広々とした待合室も不安の因子が詰まった空気で満たされています。やはり医療従事者は大変ですね。それが職場とは言え、その気の中で自分の体調を維持するのは、僕には想像もできない苦労があるんじゃないでしょうか。
母親も病院には慣れていないようです。幸いなことにどこかが痛む症状で通院しておらず、どちらかと言えば健康体の意識があるので、むしろ不安な空気に敏感になってしまうのでしょう。というか、3回前の診察に訪れたその日に緊急入院を言い渡されたことが恐怖の記憶になっているので、「今日また入院って言われないかな。もう入院は嫌だな」と念仏を唱えるようにして自分の不安を払いのけているように見えます。耳が遠くなったから、その念仏が意外に小声じゃないのはそばにいてハラハラしますが。
そんなこんなで落ち着かない気持ちになっているのを察しつつ、ただ待つだけの時間に黙って添うわけですが、おかしなつぶやきをしたりするんですね。今回は、自分と同年代の男女を小さく指さして、こんなことを言いました。
「いいねぇ、夫婦で来られるなんて」
呆れますよね。夫婦であろうが恋人であろうが友人であろうが、病院に来ること自体いいはずなんてないのに。でもまぁ、連れ合い(というのは僕の父親に当たりますが)を亡くして19年経ってもそんなふうに思うんだなあと、倅としては奇妙な気持ちになります。いずれにしても病院は慣れません。通わなくなる日が来たらいいのにと心から思います。

風が強いと雲もケバケバにさせられるのね。
