魔が差すというけれど

たまに電車に乗ると、イヤフォンをしている人の多さに「おや」となります。しかもワイヤレスばかりなのね。みんな何を聴いているんだろうと、ちょっと気になります。
僕は、外ではあまり音楽を聴きません。いまだにワイヤーありのイヤフォンしか持っていないのが恥ずかしいのではなく、外界の音を遮断してしまうのが怖いからです。ランニングなどでは軽快な音に合わせたほうが気持ちよく走れそうですが、街の音を聞きながらでないと危ない目に遭いそうで。それから過去のしくじりによって、ランニング中の音楽は禁止事項としました。
何年前かは定かじゃないけれど、今頃だったことはよく覚えています。なぜなら、街路樹のイチョウの真っ黄色の落ち葉が歩道を埋め尽くしていたから。いい感じなんですよね。あのサクサク鳴る歩道をテンポよく走るのは。ただしその日に限っては気紛れで音楽を聴いていたので、サクサクは足裏の感触で楽しむだけでした。
所定のコースを走り切って家に着いて、ウェストバッグに手を入れたら鍵がないんです。すぐに気づきました。途中で落としたんだと。イヤフォンのコードを通すためバッグを完全に閉めていなかったのが原因かもしれません。すぐさま走ってきた道を戻ったのだけど、ほらさ、歩道はイチョウの落ち葉だらけなんですよ。あのカサカサの黄色い川の上に落としたら見つけようがありません。もしイヤフォンをしていなかったら、鍵が落ちた瞬間のカサッという音が聞こえたかもしれない……。
そういう失敗をしたなら、と思いますよね。人間は忘却の生き物だから、時間が経つと似たようなことをしでかすのです。今回は自転車。外界の音が届くよう音量を絞ってはいたものの、小賢しくもペダルの運びに合わせて選曲などしたもんだから、漕ぎ出した途端にいい感じになって、ポケットに忍ばせたものを落としました。
走り出して数百メートル内の出来事。何度か往復して探索したけれど、風の強い夜だったから一瞬にしてどこかに飛ばされたかもしれない。魔が差すというけれど、魔は外から来ません。常に自分の内にいて、我が身の愚かさをあぶり出そうと狙っています。
何を落としたかは言えないなあ。だから、このまま誰にも見つからないことを今は願っています。

冬が近づくと池の公園には様々な鳥が訪れます。まるで越冬地みたいに。

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