ベイおじさん

酒の席では、決して持ち出してはならない話題があるとされています。まずは、宗教と政治。それから、野球ないしはファンの多いプロスポーツ。すべては、個々の歴史や文化に根付いた信条に基づくものだから、あるいはシラフのときでさえ慎重に扱うべきトピックだからです。
なのにベイおじさんは、贔屓の球団が勝っても負けても一人でバーにやって来てはグラスを傾けるのです。誰かに試合結果をたずねられても、常に安定の感情で淡々と応じる。彼にはこの世にタブーなどないと悟り切っているように。
現在の名称に代わる前からの、つまりは生粋の横浜DeNAベイスターズ好き。なのでご本人に了承を取らないまま、僕は彼を心の中でベイおじさんと呼んでいます。70歳前後でしょうか。犬の散歩とベイスターズのテレビ観戦と、その後の一杯しか日課がないんですよとおっしゃいます。そんな自己憐憫の振舞い方がお上手なんですよね。
先日は、ベイおじさんが先に飲んでいるところに、旦那がジャイアンツファンで奥さんがタイガースファンの夫婦がやってきました。すでに知り合いらしく、ベイおじさんはジャイアンツ旦那の顔を見るなり、「今日はこてんぱんにやられちゃったんですよ」と僕に話しかけてきました。
メジャーリーグの大谷翔平選手だけ追いかけている僕は、最近のプロ野球をよく知りません。後で調べてみたら、ベイスターズはBクラスに属するリーグ4位。なるほど。わりと負けちゃうからこそ応援したくなる気持ちもあるのでしょうが、ベイおじさんの場合は、自己憐憫を味わう感性の鍛錬に利用しているのかもしれない。そんなことはないか。いずれにしても、勝ち誇らない、いや、勝ち誇れないからこそ酒の話題にできるのでしょう。大人の飲み方と尊敬しております。
日曜の夜、久しぶりにベイスターズのテレビ中継を見ました。ジャイアンツに対して延長11回サヨナラ勝ち。ベイおじさんはどんな思いで日課の1杯に口をつけたんだろう。やはり憐憫を楽しむように、「今日はたまたまですよ」とつぶやいたんじゃないかな。
そんなわけで現在のプロ野球において、僕の中ではベイおじさんが最高の話題です。

眼下の新築工事現場。コンクリートを流し込んだ基礎の上に土を盛って、再びフラットに。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA