僕は編集の専門学校を経て今の仕事に就きました。会社勤めを経験した後の、昼間の1年制。これが楽しくてね。それまでとは違う何かが始まる予感が毎日あったんですよ。じゃ真面目に学んだかというと、短い学生生活を存分に味わうほうに意識が向いてしまったので、授業の中身はほとんど覚えていません。けれどただひとつ、文章講座の先生が諭してくれたことは今でも忘れずに守っています。
「締め切りを守れ!」
まぁ当たり前のことです。何事にもスケジュールが存在し、関わる人数が増えるほどにその約束の意味は重くなっていく。にもかかわらず守れない人間は、他に替えが利かない才能の持ち主でない限り切り捨てられていくというのです。恐ろしいなあと学生だった僕は怯えました。さらに先生はこんな言葉をつないだのです。
「締め切りは品質に優先する」
その真意、当時の自分にはよくわかりませんでした。多少遅くなってもより良いものを出してもらったほうがいいんじゃないかと思ったから。しかし実際の現場に出てみて、先生の教えが正しかったことを痛感します。
出版業界の特性なのか、締め切りを守れない人のなんと多いこと。なおかつ駆け出し編集者時代の自分が担当した何人かのライターは、締め切りをはるかに超過しながら上手とは言い難い文章を出してきたのです。遅くなったぶんだけ良い仕上がりになると期待した自分が情けなくなるような、それはそれは残念な中身でした。そんな人たちに頼むくらいなら自分で書いたほうが何かと都合がいいだろう。そう思ったのが、実を言えば現在のライター専属になる原点でした。あの人たちに感謝したほうがいいのかな? 悩みどころだな。
締め切りを守るという当たり前を淡々と続けて得られるのは信頼です。あのときの先生が諭してくれたのはそういうことだったんですね。特にフリーランスになってからは、どこかにしまっておいた石が突然光り出すみたいに、その重要性を知らしめてくれています。そしてまた個として生き残るためには、高品質な原稿を締め切りまでに提供するという、あるいは替えの利かない価値を発揮し続けること……。
いやあの先生、二つの要素をちゃんと満たせているかはわかりませんが、少なくとも締め切りだけは教えに従っております。それは文才がなくてもできることだと、そうは言わずに語ってくれた優しさに応える意味でも。

誰が見るでもなく情報を送り続ける律義さ。
