ジェノベーゼよりハンドブレンダー

少し前、駅前の本屋さんが間もなく閉店する件に触れました。その際、自ら「本は買って満足しちゃいけない代物」と書いてみて、今もって反省の尾が伸びているのです。手に入れた本をすぐに読まない本質的な理由は、本をたくさん買う賢そうな自分に酔いたいだけなんですよね。その浅はかさは悔い改めるべき。だから本以外の買い物にも慎重にならなければ……。
「自分でもジェノベーゼをつくってみたい」とつぶやいたのは、ある店が春菊を使ったパスタソースを仕込んでいたから。ジェノベーゼはバジルを用いるのが一般的ながら、春菊でも味わい深いソースに仕上がるらしい。そこでスプーン一杯だけ味見させてもらったら、「ほお」と唸る爽やかな風味でした。
春菊もアリなんだと感心したのは、料理好きの観点ではありません。僕の手づくり料理への興味は、子供の頃の図画工作好きの延長です。器用ではなかったけれど、手を動かしたい衝動が絶えませんでした。しかも技量や経験値を無視して、複雑かつ上級なものに挑みたがる。そういう背伸びにも反省がなかったから、大人になってもジェノベーゼなんて気取ったことを口にするのでしょう。
にもかかわらず関心が高まると、製作方法を調べてみるわけです。僕に足りなかったのは、ジェノベーゼソースづくりの経験を除けば、家電のミキサーのみ。しかしあれって掃除が面倒臭そうだし、機械の存在感にも手を焼きそうなので手を出さずにきた――という心の声が漏れたのか、親切なシェフが教えてくれました
「大きなミキサーじゃなくても、ハンドブレンダーでイケますよ」
初めて耳にしたハンドブレンダーは、ハンドミキサーとも呼ばれていて、材料を掻き回す部分だけが独立している装置らしい。この情報を聞いて顔をもたげてきたのが、道具好きの自分。表層を管理している僕はもちろん気付いています。新たなツールを手に入れただけで満足しかねない浅はかさに。
でも、ハンドブレンダーがあれば僕にも美味しいソースがつくれるのだろうか? などと誰にたずねるでもなく興味が沸き上がっている時点で、展開の怪しさが危惧されます。なぜなら、もはやジェノベーゼよりハンドブレンダーが気になって仕方ないから。何なんでしょうね、簡単に本末転倒をやらかしそうな気性ってのは。

これを撮った周囲は外国語に満ちていて、自分が都内にいる自信が持てなくなりました。

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