誰かに理由を問われたケースを想定し、「恥ずかしながら本気なので」という答えを胸に秘めながら通っているのがバッティングセンターです。機械が自動的に球を放ってくれる、野球の打撃練習に特化した施設ですから、恥じるべきいかがわしさの欠片もありません。
ですが、飲み会ついでの余興とか、単なるストレス発散が目的で訪れる人もいます。そこに本気の練習目的で通うというのが、ねぇ。大人の無邪気にも程があるから、恥ずかしさくらいは自覚しておくべきだろうと。とは言え、見知らぬ誰かに不意に問われるのもナニなので、ガラ空きの平日昼前後に行くようにしています。羞恥心に苛まれず練習に没頭できるし。
そういう僕にとって好都合な時間帯にも、幾人かは訪れます。この間は、10歳くらいの男の子とお母さんが先にいました。二人もガラ空きのメリットを知っているのか、施設でもっとも球速が遅い80キロのゲージに入り浸り。バットに振り回される少年が微笑ましかったのですが、ここでは他者に意識を向けないのがマナーです。
しかし、音だけは遮断できません。少年の打席方向から連続で聞こえてくるのは、ボフッという鈍い響き。空振りの球が、打席の背後に設置してあるマットにぶつかる音です。あの小さな体で球をとらえるのは、まだ難しいのかもしれません。
なのに諦めない。僕が料金を5回払う間も、少年はゲージから離れませんでした。野球に関して何の助言もできない様子のお母さんは、我が子の姿を見守る他になかったようです。互いにボフッという残念な響きに耐えながら。
帰るタイミングが同じになってしまったので、何気なく二人の様子をうかがったら、出口付近で少年が涙をこぼしていました。そんなふて腐れ気味の息子とは目を合わさず、自転車に乗る準備をしながらつぶやいたお母さんの言葉がよかったです。
「お昼、何を食べようか?」
ごく当たり前の親子の会話だろうけれど、いろいろしみじみ感じ入るものがありました。母と子はそれぞれ何を記憶し何を忘れていくのだろう、とか。なんてことに思いが至る歳になりながらもバッティングセンターに本気を注ぐのは、やっぱりちょっと恥ずかしいですよね。

いかにせよ、道路を掘る工事は避け難いみたい。
