素敵な社交辞令

僕は社交辞令の類を口にするのが苦手です。おそらく多くのインタビューを実行する過程で、それが邪魔かつ無益と感じたからでしょう。
社交辞令とは、人間関係を円滑にするための儀礼的な挨拶や言葉遣い、ひいては慣用句と説明されます。もちろん挨拶や言葉遣いはとても大事。とは言え、妙に褒めたり持ち上げたりするだけのやり取りに終始するのは、相手に怯えて切り込む勇気がない証に思えるのです。
そもそもインタビューは、限られた時間の中で親密な空気を醸成しなければなりません。でなければ、話すつもりがなかった核心めいたものを引き出せないから。そんな、顔で笑って心で汗かく局面で、どこにも届かない空砲を打つ余裕はないのです。
しかし仕事の現場では、僕の出番が来るまでの間、歯の浮くような賛辞が飛び交うことが少なくありません。たとえば、滅多に行けない地方の特別な場所だと、打ち合わせの段階で一度も目にしなかった、それとなく権力を態度に滲ませる人物が次々に表れ、取材対象者に向けて美辞麗句を結わいつけた社交辞令の矢をこれでもかと放ちまくります。そうして現場を荒らす惨事に気づかないのは、僕の知らない一般常識なのでしょうか。
というような文脈だと、社交辞令を敵視していると思われても仕方ありません。けれど現金なもので、自分に向けられると悪い気がしないというか、社交辞令によろこぶ人の感覚とはこういうものかと感じ入ったりするのです。
初めてお仕事をした方から、こんな返信がありました。「素敵な原稿をありがとうございました」
まずないですよ、そんな言葉をいただけるなんて。しかもそれは、某企業の取り組みに関する堅めの記事だったので、その内容と素敵という単語のアンバランスさが際立って見えたのです。
本心? 口癖? いやいや、例のヤツ? この際それはどうでもよくて、相手にすれば社交辞令の範疇であっても、センスある言葉選びは人の心を温めるのだと知りました。それこそが素敵。
このお仕事、2本で終了予定が4本に伸びました。また違ったセンスある褒め言葉をいただけるよう全力を尽くします。

素敵な空。

 

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