小さな飲み屋のカウンター。先日の晩は、「僕のこと覚えてます?」と朗らかな声とともに現れた男性がストゥールに腰掛けました。こういうときの店主はプロなので、「もちろんですよ」と明るく応じて、たぶん来店2回目の客をよろこばせます。
すでに2杯目に取り掛かっていた僕は、そんな方を黙って見ているのです。誰も信じないけれど元来が人見知りで、スイッチが入らない限り初対面の人に話しかけたりできないから。あと、底意地悪くも人の様子をそれとなく観察するのが好きなところもあります。
さておき、自分なりのペースを構築せんとばかりに、その男性はいろんな話題を繰り出しました。有名人の誰それと飲み友達であるとか、まぁそんな感じで。この類のトピックに関心が及ばない性質なので、僕は目の前の2杯目をゆっくり楽しみ続けています。
まだ喋るのかなあと思っていたら、今度はダイエットの体験談。1年半くらい前に意を決して断酒し、ジムなど通って体重を15キロくらい落したらしい。それを聞いて初めて彼のほうに視線を向けたら、今はその直後と思えない体型でした。
周囲の気配を察したのか、「でもね」とスマホを取り出して店主に見せたのは、割れていた当時の腹筋写真。そこでようやく、僕なりの関心が動き始めたのです。それは、良かったとするタイミングの写真を持ち歩いている人に対する興味。
あくまで好意的な疑問だけど、若かろうと痩せていようと、それを良しとして人に見せる判断基準とは何なのだろうか。まあね、「今は見る影もなく」といった小さな笑いを起こしたいサービス心だとは思いますが。
でも、僕にはできないな。エピソードだけなら、こんなことがあったと話せるかもしれない。けれど写真は、今も昔も人に見せて良しの自分が存在しない。それに、仮に自分の良かったときを披露して、相手を困らせたくないとも思います。要するにそれは、僕のトークで用意していない術なんでしょうね。
ちなみに、僕は彼の腹筋写真をのぞきませんでした。関心も義理もないとジャッジした自分の底意地の悪さに吹き出しそうになって、ごまかしついでに2杯目を空けた夜でした。

季節のお印。
