メトシェラ

「この宇宙は、今から138億年前に発生したビッグバンで誕生した」。これは僕でも知っている定説です。ところが、そのビッグバンより古い星があると聞きました。
地球から約200光年離れた位置にある恒星HD 140283。2000年頃、地球との距離などをもとにこの星の年齢が初めて計算されたとき、推定約160億歳と発表されたそうです。つまりはビッグバンの約20億年前。となればビッグバンの発生年が間違っていることになってしまう……。
宇宙の始まりは、それこそ星の数ほどの科学者たちによって定説が導き出されました。それでも定説という曖昧な表現が外されないのは、宇宙を考える人間の誰一人、目撃証拠を持っていないから。
だから彼らは、時々の理論を駆使して、この宇宙の理について仮説と検証を繰り返してきた。そしてまた観測技術の進化によって、観察実験で仮説を実証することができるようになった。ゆえにビッグバン138億年前説は絶対的。それを覆す星が見つかったと知った科学者たちは、どんな気持ちだったんだろう。
ビッグバンより古い可能性があるHD 140283は、969歳まで生きたという旧約聖書の創世記に登場する人物にちなんで、メトシェラと呼ばれました。それを皮肉と怒ったかどうかは知りませんが、今を生きる科学者たちはメトシェラ星の実年齢を何度も計算し直し、最近では142億7000万歳まで短縮したそうな。そこには7億年から8億年程度の誤差が含まれているので、もっとも若い場合ならビッグバン直後に誕生した星という、ひとまずの結論に達しているらしいです。
そうかと思えば最新の研究では、宇宙の年齢は138億年より24億年も若い114億年かもしれないという説が出てきた。ならばメトシェラ星は、新ビッグバン説よりもっと前に生まれたことになるんじゃないか?
よく思うんです。宇宙に目を向けた科学者たちは、不明と矛盾の連続が嫌にならないのかなと。たとえば僕は、すぐ近くにいる人が何を考えているのかつかめなくなったとき、たった一人の人間ですら謎に満ちた宇宙じゃないかと、その人を考える自分を呪ったりするんですね。
けれど沸き立つ興味は抑えきれない。あるいは、沸き立つ興味の出どころ自体が、ビッグバンに等しい謎なのかもしれない。未知に好奇心など持たなくても地球は回るのに、人間って何なんでしょうね。

雲がこういう形になる理由など考えぬまま、おもしろいなあと見上げるのがいいのかも。

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