時代のリアルと松野家の爺さん

すでに放送4週を終えた、新しい朝ドラ『ばけばけ』。主題歌にビッグメジャーではない『ハンバート ハンバート』を起用したセンスを含み、僕はけっこう楽しく観ています。中でも特に興味深いのは、主人公のトキが育てられた松野家の感覚です。
松野家は、今の島根県の松江藩に仕えた上級武士だったらしいんですね。しかし明治になると、お城勤めと同時に収入の一切を喪失。そこで新たな職を探すのだけど、武士は金を稼ぐ術を学んでこなかったから、なかなか働き口にありつけない。その結果、困窮を極める生活を強いられることになる。
ドラマの中でも、借金取りが帰った後の玄関を清めたい塩すら底を突いているシーンが登場します。しかし脚本と演出と役者によって、苦しくも楽しい我が家的に描かれる。それはそれでおもしろいんです。でも、実際の暮らしは相当に辛いものだったはず。
歴史の教科書で学んだ明治の始まりは、誰もが文明開化をよろこび、次々に上陸する西洋文化に浮足立っていた。そんなイメージがあったわけです。けれど本当は、松野家のような家族が全国にあふれていたんじゃないか。それがその時代のリアルなんじゃないか。そんなことを考えさせてくれました。
松野家の祖父は、劇中の現時点でも、譲れぬ武士の魂として髷を結い続けています。僕はそれ、明治維新から何年も経っていないから仕方ないと思っていたんですね。ところが、朝ドラが定番とする実在モデルの生涯に沿った展開を調べてみると、4週目終わりで婿殿が出奔し、トキが正式に離婚したのは明治23年(1890年)でした。明治は約45年間続くのだけど、松野家の爺さんは、その半分近くまで武士をやめられなかったことになるわけです。何か、凄いですよね。
歴史を紐解けば、時代の大転換期を示す記述はいくつも見つかります。そしてまた、時代を動かしたとされる人物の名前もすぐに発見できる。けれど、先回りできるにせよ、置き去りにされるにせよ、圧倒的大多数の人は、歴史の中に埋もれてしまうんですよね。きっと僕もそのひとりです。それは特に悲しくない。けれど、だからこそ劇中の松野家の爺さんには、何だかんだいい人生だったと笑顔で臨終を迎えてほしいと思っているのです。
ね、かなり入れ込んで観てるでしょ。

もはや懐かしい北斎展から。江戸時代の人は、こんなに美しい版画を日常的に楽しんでいたんだね。

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