よければ書かせてくれませんか?

「仕事してるでしょ?」
これは前にもご登場いただいた、僕より10歳くらい上の女性医師。診察より世間話が長い、おもしろい先生です。カルテに記された僕の年齢から、すでに年金生活に入っている可能性を考慮したのだろうと推察した上で、次のように答えました。
まだまだ働かないとやっていけません。自営業なので、定年がないのは救いですけれど……。
「私も開業医だから、自営の大変さはわかるわ。あれ? どんなお仕事だっけ?」
それも前にお伝えした気がします。でも、お喋り好きな先生だから、毎日いろんな患者と話す中では、カルテに載っていない情報は覚えきれないのかもしれません。なので、てらわず原稿を書く仕事と返しました。
「いいよね、原稿を書けるって。私も学会からコラム執筆を頼まれることがあるけれど、上手くまとめられなくていつも困ってる」
そうおっしゃった刹那、今日も診察以外の話題に及ぶ気配を感じました。その時点で、僕は患者モードを脱していたと思います。
「いろいろ伝えたいのよ。特に若い同業者に向けて。確かに経営は大事。医療に関する国の支えが薄い時代だから、誰もが窮しているのもよくわかる。でもね、私たちの仕事は患者を笑顔にすることなの。その大事さを、どうすれば伝えられるかって、いつも思うのよ」
医療ドラマでしか聞けないような志を、リアルなドクターが語る姿に感銘を受けつつ、僕は同時に別のことを考えていました。こんな話、診察室に留めておくのはもったいないと。そこでつい口にしてしまいました。よければ僕に書かせてくれませんか?
「そうね」
そのささやくような返答が、この話題の終点でした。そもそもボヤキに近いつぶやきだったのかもしれないし、次の患者を診なきゃいけない責務を思い出したのかもしれない。
いずれにせよ、あっけない幕切れで依頼されないことを悟ったのだけど、僕が伝える手立てになれたらいいのに、というトピックは至るところに落ちていると、そういう話です。先生が僕の職業を覚えていてくれれば、あるいはそのうちに。いやいや、次の診察でも期待せず、世間話を楽しみたいと思います。

ピラカンサらしい。これだけ実るなら食べられるといいのに、青酸系の毒があるんだって。

 

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