[雪が積もる時期には2階から出入りします]

首都圏で生まれ育った子供の頃の僕は、雪国に憧れていました。社会科的に言えば豪雪地帯の冬の暮らし振りを、小学校の図書館にあった分厚い本の中で見つけたのです。粗めのモノクロ写真に、こんな一文が添えられていました。
[雪が積もる時期には2階から出入りします]
その下方にさらなる説明。家屋の壁を内側から撮った写真が、脚立みたいな昇降器具でたどり着く冬専用の扉の存在を示してくれました。
なるほど! 雪国の家は冬の大雪を前提にした構造なんだ。そんな家ってカッコいい。それに、1階を完全に覆い隠すほどの雪が降るなら、自分ちの団地の4階のベランダから飛び降りられるかも、とか思ったわけです。無邪気というか、アホですよね。自分ちの団地の1階や2階が雪に埋もれる酷さなど考えないんだから。
それから、かまくら。雪室という漢字が充てられる雪の家も興味津々でした。いつかつくってみたい。その中でお餅を焼いて食べてみたい。そう願ってみても、首都圏に降る雪など高が知れていて、せいぜい形になるのは雪だるま。それも泥まみれで、自分でつくっておいて何だけど、いつもみすぼらしい存在でした。
まるでわかっちゃいなかった。2階に扉があっても、実は出入り自体を控えるほど厳しい季節を過ごさなければならない事実や、本来のかまくらは水神様を祀る伝統行事で、決して娯楽ではないことも、かつての僕は完全に見過ごしていたのです。たぶん、未体験のアトラクションみたいに思ったのでしょう
それから何十年が経ち、いろんなことを知ったおかげで、それなりに雪国の冬を慮れるようになりました。けれどいまだに想像の域を出ないと実感するのは、窓の向こうに首都圏らしい冬晴れが広がるエアコンの利いた部屋で、大寒波襲来のニュースを眺めているときです。ぬくぬくとしたもんです。もし映像の中の町に一人暮らしの母親を置いていたらと思うと、少しだけぞくぞくします。

酷く寒そうな空だあなと思って。

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