「人生でいちばんよかった年齢って?」

飲み屋で振られる真面目っぽい質問は、返答が難しいですね。ちゃんと答えるほどに場の空気を冷やすのがオチなので、できれば聞かないでほしい。先日は、その日が誕生日だった32歳からこんな質問をされました。
「トナオさんは私と同じ歳に何をやっていましたか? 人生でいちばんよかった年齢っていくつですか?」
ふむ。気持ちよさそうに酔っ払っているからこそ、答えあぐねる問いが口を突いて出るんだろうな。
32歳のときは、ひとつの専門誌の編集に必死で取り組んでいた。これは最初の質問の返し。「何の雑誌?」と真顔でたずねてきたのは別の酔客でした。手短に答えたけれど、質問した当人は聞いていませんでした。案の定ってやつですね。
いちばんよかった年齢はすぐに思いつかないけれど、ここまでの人生で、30代はもっとも楽しかった世代と言っていいかもしれない。これは二番目の質問に対する回答。
「うわ、希望が持てるぅ!」
そう叫んだ質問者は、遠くのほうで誰かと乾杯。歳を重ねるのが不安だったのかなと思ったけれど、希望を持ってくれたなら何よりです。
本当は、もっと話したかった。振り返れば30代の楽しさは、混沌とした20代を耐えた先に差し込んだ光に思えたこと。その光の強さに比例して濃くなる影とも対峙できたから、達成感や満足感もひとしおだったこと。そんなふうに感じ取れたのは、実は30代の最中ではなく、40代の中盤が近づいた頃だったこと。
さらに続ければ、40代になり20代や30代を俯瞰できるようになると、60代の中盤に差し掛かった現在は、40代にも50代にもタイトルがつけられるようになること。だからもし自分の人生を物語るとしたら、やはり10年単位で章を設けるのが適切と実感できること……。
という頭の中で瞬時に巡った説明は、誰も求めちゃいません。なので、小さな店のそこここで盛り上がる様子を黙って見守っていました。その間、たぶん1分くらい。一通り周囲を見渡した質問者が、再び僕に視線を合わせました。そこで一言。
人生でいちばん楽しいのは、やっぱり今日でしょ。
「う~、沁みる!」だって。ったく、何が沁みているんだか。けれど、それは僕の真実です。だって、自分が32歳のときに生まれた人と杯を交わせるなんて、ねぇ。そういうささやかなよろこびが沁みる気持ちは当分わからないだろうな。わかったときに自分は生きているだろうか、という侘び寂び的な感覚も。
いずれにしても、どんな年齢や世代を迎えようと、自身の味わいを大切にする他にありませんね。お誕生日の皆さん、今日の気分を存分に楽しんでください。

ひょっこり六本木ヒルズ。23年もこんなふうに見えているみたい。

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